僕たちはサヌールのインディホテルでアレックスとビビと合流した。
このカップルは数日の間、常にテンションMAX(特にマルセロとリッキー)の僕たちグループと離れ、束の間の二人だけの時間を過ごしリラックスできたようだ。二人の顔からその様子が伺える。
僕には二人が無理やり戦場にかり出される兵士のように思えて、気の毒に思う。
二人とバトンタッチして戦場を離脱することになったのがゆうやである。
お勤めご苦労様でした。ゆっくりと余生を過ごすんだぞ、僕も必ず生きて帰ってくるからな、などと弟に別れを告げる兄のような気持ちになった。
新たに仲間に加わったケビンと、ダークエンジェルことディーバを二人に紹介した。爽やかな外向的なケビンに対して、半乳飛び出しているディーバと握手したアレックスとビビの表情は、若干引き気味であった感は否めない。問題など起きなければいいのだが、と僕は少し不安になった。
足りなかったヘルメットも調達したことだし、これでもう警察に止められる心配は無いはずだ。無免許運転であることを除けばだが。バリでは12歳くらいの子どもが運転しているのだから、その点に関しては、赤信号みんなで渡れば怖くない精神で心配無用である。
僕とケビンは1人で乗り、リッキーの後ろにディーバ、アレックスのうしろにビビが乗った。
今回は土地勘に優れたリッキーが道を覚えているらしく先導することになった。たださえ後続車を気にせずかっ飛ばすリッキーだが、後ろにディーバを乗せたことで彼女に良いところを見せようと、水を得た魚のようにさらに調子に乗って飛ばすこととなった。
とばっちりを受けたのがまだ運転に慣れていないケビンである。今までにほとんどバイクを運転したことがないらしく、バリに来た当初の僕と同じ状況だ。初心者の気持ちを痛いほどよくわかる僕は、暴走リッキーについていきつつも、何度もうしろを見てケビンがはぐれてないか確認した。必要とあれば、その都度スピードを落としてケビンがはぐれないように全力を尽くした。
何かに集中していると時間というのはあっという間に過ぎるもので、リッキーが常に時速100キロで飛ばしていたことを差し引いても、一瞬でウブドに着いたように感じられた。ケビンもどうにかついてこれた。
ウブドにはモンキーフォレストという自然保護区があって、700匹の野生の猿が暮らしている。モンキーフォレストのすぐそばに車道があって、中心街へ行くにはここを通らなければならない。
観光地というだけあって駐車スペースもある。僕たちはそこにスクーターを停めて小休憩することにした。
モンキーフォレストに入るつもりはない僕たちなのだが、猿たち自ら客引きを行っている(ように見える)のには驚かされた。
アレックスがふざけた変顔で奇声をあげて客引きの猿にちょっかいを出していると、猿は興奮して鬼のような形相で唸り声を上げながら威嚇してきた。
マルセロに頼まれたミッションでマレーシアに行った際(「ミッションを与えよう」参照)、バトゥ洞窟に行って猿と接触した僕だから言える。
猿を刺激すると危ないよ!(このあと、なんでやねんとツッコまれたかもしれない)
しかし、この場合は危ないのは猿ではなかったのだ。
猿と共鳴したのか、同類なのか、なんとディーバが一歩前に出て猿に負けじと大声で威嚇し始めた。彼女の言葉には上品さ、おしとやかさのかけらもない。
「FUCK YOU ASSHOLE! SON OF BITCH! MOTHER FUCKER!」
どういう意味かは訳さないが(僕の語彙力がないとかではなく、むしろ僕の語彙力だとあなたに多大な精神的ダメージを与えかねないため)、英語の放送禁止用語のオンパレードだった。
彼女のすぐそばにいたアレックスはあからさまに彼女と距離を置いた。周りに危ないやつと知り合いだと思われたくという、人間の自然な反応だろう。
周りには親子連れやカップルなどたくさんの観光客がいた。親は驚いた顔で子の耳を塞ぎ、カップルは一体全体、何事だという表情を浮かべている。
大抵のことは笑い飛ばしてしまう僕だが、さすがにこれには声を失った。
今思えば、この時すでにディーバの本性が垣間見えていたのかもしれない。
彼女はトイレから戻ってきたかのような何食わぬ顔で僕たちの元に戻ってきた。
僕たちは誰一人として、彼女の言動に対して口を出さなかった。僕たちにとってはそれほど衝撃的だった。
その後、僕たちは前回泊まった宿に行きオーナーのおばちゃんと再会した。おばちゃんはリッキーを筆頭に(一番目立つので当たり前だが)僕たちのことを覚えていてくれた。
3部屋を借りて、アレックスとビビが1部屋、残り2部屋を4人で分けるのだが、ここで少しもめた。原因はもちろんディーバだ。
ディーバが、私はリッキーとケビンと一緒の部屋がいい、というのだ。僕としてはどうでもよかったが、いろいろと話がややこしくなりそうだったのでアレックスが断固として反対した。
少し険悪なムードになりつつあったので、みんなで先に町を散策することにした。
ここからダークエンジェルの本領を発揮して、ディーバ劇場が始まる。
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