ノリにノッて、かつてないほどにハイテンションなオレにご褒美とばかりに、ついに待ちに待った人物が現れた。
ドラゴンボールの悟空の道着を来た女の子が、友達2人と坂道の下の方からゆっくりと歩いてくるのが見えた。彼女たちもオレに気づいて、友達2人が「ほら、あんたの仲間があそこにいるよ」、と悟空をはやし立てているようだ。悟空も恥ずかしがりながら笑っている。
ついに、宿敵カカロットはオレのもとへやってきた。
「カカロット、勝負だ。いや、写真撮ろうよ」
オレはカカロットに笑顔で声をかけた。カカロットも照れながらも、うんとうなずいた。
もちろんポーズは『フュージョン』。しかし、カカロットは結構酔っ払っているようで、フラフラしてなかなかお互いの指が重なり合わなかった。もし、本当にフュージョンができたら、きっと太ったゴジータになっていただろう。笑
空には夜明けの気配が漂ってきて、だんだんと人通りが少なくなってきて、バーの店員は閉める準備を始めていた。時計を見ると朝の5時すぎ。何時間も踊ったりハイタッチしたりと、一晩中騒いでいたようだ。どうりで体が異常に疲れているわけだ。何より、動き回って体力を消耗しすぎて、お腹が空いている。満場一致で焼肉屋さんへ行くことに決まった。
焼肉屋さんへ向かう途中、セクシーミッキーとミニーちゃんが通りにいて、笑顔でオレに声をかけてきた。
「一緒に写真撮りましょう」
「はい、喜んで!!」
ベジータ人気はまだまだ終わらないようだ。
セクシーミッキーとミニーと別れて焼肉屋さんに入ると、驚いたことに、時刻は午前6時を回るというに、空いてる席を見つけるのが難しいほどたくさんの人で賑わっている。どうにか空いてる席を見つけて座ると、韓国焼き肉の定番のサムギョプサル(豚の三枚肉)とビール、ソジュ(韓国の焼酎)を頼んだ。
すぐに店員が肉とお酒を運んできたあと、恐怖のゲーム『タイタニック』が始まった。
「タイタニックやろうよ」
とジンがひと声かけた。何のことかわからず、ぽかんとしているオレにハンが説明し始めた。
ビールが入ったジョッキの中に空のショットグラスを浮かせて、順番よくショットグラスの中にソジュを注いでいき、ショットグラスをジョッキに沈めた人が負けとなって、お酒を飲み干さないといけないというルールだ。沈むということでタイタニックという名がついている。
さっそくゲーム開始だ。じゃんけんで負けたオレが一番目となった。よっしゃ、オレの次のエイミーを沈没させてやろうと企み、少し多めにソジュを注いた瞬間だった。
ドボン。ショットグラスがほぼ満杯になり、一瞬にしてジョッキの底へと沈んだ。ガーン。初っ端から負けてしまった。
オレ以外の3人は、一斉に吹き出して笑った。
ルールなので仕方なくジョッキを持って、一気に飲み干した。ソジュの癖の強い味とビールの苦味が絶妙に合わさって、最悪な味がする。夜通しでお酒を飲んでいる体に、この一杯はだいぶこたえたが、それでもゲームは2回戦へと突入した。
次はジンが先頭バッターになり、ゲームに慣れているので、グラスが沈まないように絶妙にソジュを注ぐ。その次のエイミー、ハンとタイタニック経験者が巧みにソジュを注いで、グラスは半分まで満たされていた。
明らかに、次に注いだらグラスが沈みそうな状態でオレに順番が回ってきた。オレは、それでもベストを尽くそうと、そっとソジュを注いでみる。ドボン。またしてもオレがグラスを沈没させてしまった。みんなが、さあ飲めという意地悪な顔でオレを見つめている。オレは、目をつぶって一気に飲み干した。
その後もタイタニックゲームは続いたが、それからは負の連鎖で、酒が回って腕の微調整が効かなくなり、全敗してしまった。『タイタニック』初挑戦はスリルがあって楽しかったのだが、オレにとって苦い思い出となってしまった。次はベストなコンディションで望んで、必ず初勝利を掴み取ろうと心の中で誓った。
おいしいサムギョプサルを食べに来たのに、『タイタニック』での全敗が強く印象に残った焼肉屋さんとなってしまった。外に出ると、すっかり夜が明けて、空が明るくなっていた。
「そろそろ帰りましょう」
エイミーの一言に、みんなは眠そうな顔で静かに頷いて、駅へと歩き出した。