翌朝、みんなで朝食を食べたあと、僕は近くのお店で新しいビーサンを購入した。
これでビーチにでもどこへでも行ける。
そのあと、みんなで町を散策することになったのだが、ゆうやは残ることになった。
常にハイテンションなメンバーたちと過ごしているから、精神的に疲れたのだろう。確かにこのテンションで動き回っていては、僕の体ももたないかもしれない。
彼には同情する。しかし、僕はそれ以上に、バリにいる間にありったけのことを体験したいという気持ちが強い。
バリでの僕にとっての安息日がいつ来るのかわからないが、まだまだ先になるであろう。
午前10過ぎ、僕たちはスクーターを走らせていた。まだ朝だというのにすでに日差しが強く、容赦なく僕の体をこんがりと焼いている。
こんな暑いときに服なんか着てられるか、とみなブラジルスタイル(ブラジルでは上半身はだかで車を運転している人もいるし、街中でも時折見かける)で上半身はだかになっていた。
もちろん、僕もそれに含まれる。そして、当然、女性陣はそこから除外される。僕としては、この際だから男も女もみな平等に脱いでほしかったのだが、僕の願いは届かない。
僕たちはウルワツの絶景スポットに来た。
公園のような芝で覆われた広場に入ると、その先には何十頭もの牛たちがいた。ここは私有地なのだろうか、よくわからないが、絶景ポイントへと進んでいく。
牛たちは草を食べながらも横目でちらちらと僕たちを見ている。
ここでちょっかいを出さずにはいられない、イタズラの神、通称イタ神(いたがみ)の称号を持つマルセロは、牛たちに向かっていくそぶりを見せて、2、3歩大きな足音を立てて威嚇した。
すると、牛たちはオウム返しといわんばかりに、まるで闘牛のような突進する構えを見せて威嚇した。
その矛先は、なぜかマルセロではなく、僕に向いていたのだ。
突然のできごとに僕は驚いて、尻もちをついてしまった。それを見て笑うメンバーたち、そしてその原因を作った大爆笑するイタ神マルセロ。
お前ら全員、牛に突進されてケツの穴に角が刺さればよかったのに。そして、牛よ、オレじゃないんだよ。犯人はあいつだ。なぜオレを狙う。
という心の声は心の奥底に仕舞っておいて、みんなと一緒に笑いあった。
こいつらと一緒にいると巻き添えなどではなく、すべてのダメージがオレだけに集中しそうな気がする。遅かれ早かれ、対策を練らねばならないだろう。
そのあとは何事もなく牛たちの群れを横切り、無事に絶景ポイントにたどり着いた。そこは崖になっていて、その先には遠目から見ると世にも美しいオーシャンビューが広がっていた。よく見るとたくさんのゴミが浮いているのだが。
ん、この風景に何かが足りない気がする。あ、そうだ・・・
オレでした。浮いているゴミたちのマイナスポイントを、僕という爽やかイケメンで相殺しなきゃね。
それぞれが思うままに、ポーズを取ってこんな写真を撮ったんだからいいじゃないの。ちなみに、僕、高いところ苦手なんで、精一杯の笑顔を作ったが顔が引きつっているように見えなくもない。
それぞれが決めポーズで写真を撮って満足すると、僕たちは近くの屋根付きベンチに腰を下ろした。
そしてこんな写真を撮ってみる。
僕からしたら十分カッコつけてるが、こんな大人しい写真で満足できないブラジル人の男どもは写真を撮り続けた。
この写真に満足してやっと撮影会は終了した。次の場所に移動するため、僕たちは駐輪場に戻ることにした。
僕はまたイタ神マルセロが何かやらかさないかと心配だったので、彼の一挙手一投足に注意した。何が起こっても、全員を置き去りにしてでも自分だけは助かってやるという気持ちだった。
まあ、帰りは何もなかったのだが。
駐輪場に辿り着いてスクーターのシートに座った瞬間だった。ジューッと聞こえてきそうなほどの熱が一斉に僕のお尻に集中した。
太陽に照らされ続けたシートは異常な熱さになり、卵がやけるであろう温度に達していた。しかも僕のスクーターだけ。
他のみんなは、ちょうど影になっているところに停めていて、スペースがなかったので僕は少し離れたところに停めていた。そう、スポットライトのように直射日光を浴びるスポットに。
なぜ僕だけいつもハプニングに遭遇するのか不思議である。僕は地球上のありとあらゆるハプニングを引き寄せる磁石のような能力を持っているに違いない。
この能力で周りから笑いをとっておもしろいキャラを確立するか、ツイてないと悲観的になるかは僕次第である。もちろん僕は前者を取る。ここまでの旅で何度笑いものされたことか・・・おいしいではないか。
ただ、僕の体がついてこれるかが心配でならない。
とりあえずこの場は笑いよりもお尻の保護を優先して、ホットプレートと化したシートに飲水として持ってきていた2Lの水をかけて熱を冷ました。そして、念の為タオルをシートにかぶせて、僕のお尻にできる最善策を施した。
それから僕たちはビーチへと向かった。