ビアンカが帰る数日前の午後、オレとゆうやはマルセロに呼び出されてホテルの1階のレストランに座っていた。
マルセロが真剣な面持ちで話し始める。
「ゆうま、ゆうや、お前たち2人に頼みがあるんだ。ビアンカと一緒にマレーシアに行ってくれないか?」
マルセロはオレたちに、バリ島で見つけることができなかったカメラの部品をマレーシアで探して購入してもらいたいのだ。
マルセロ本人が行けば話が早いのだが、マルセロはインドネシアでの仕事のビザを申請中でパスポートも一緒に提出している。それによってマルセロは現在、バリ島から出られない状況になっていて、オレたちにおつかいを頼んできたわけだ。
「うん、いいよー!」
オレは1分ほど考えた結果、マレーシアに行くことにした。このチャンスを逃したら、マレーシアに行く機会なんてこの先滅多にないだろうと考えた。あまり旅慣れしていないビアンカと一緒に行くのは懸念材料だが、どうにかなるであろう。
話が決まるとさっそく航空券を予約して、オレとゆうやとビアンカの3人でのマレーシアのクアラルンプール2泊3日の旅が確定した。そのあと再びサヌールでみんなと合流することになる。
「ありがとう。本当に助かる」
マルセロは大喜びだ。
その後、ビアンカはマレーシアに行くことなく急遽仕事でブラジルに帰っていった。
出発の日の朝、ソフィーもこの日レンボンガン島からバリ島へ戻るので、みんなと別れの抱擁を交わす。
ソフィーもしばらくはバリ島にいるのでまた会えるでしょう。寂しくなるけど、少しの間だけさようなら。
午後になり、今度はオレとゆうやが旅立つ番だ。マルセロに付き添われて港まで歩いて行きボートを待つ。
ちなみにマルセロとリッキーは、リッキーがインフィニティプールから戻ってきた時に口論となって、一応仲直りはしたがまだ少しギクシャクしている。それによってリッキーはマルセロと一緒には港まで来なかった。
「ゆうま、ゆうや頼んだぞ。サヌールで待ってるぞ」
「任せとけ」
マルセロに見送られて、オレとゆうやはボートに乗り込んだ。
オレはボートの上で、レンボンガン島でのできごとを振り返っていた。
短い間だったけど、レンボンガン島では良いことや、公には語れないような悪いことをいろいろ体験できる楽しい時間だった。予測不能な問題が起きたり、いろいろなタイプの人に会うからこそ、それにどう対応するかという問題解決能力や適応能力が鍛えられる。
旅をしながら人生の教訓を学んでいるのをひしひしと感じた。
再びバリ島の港へつくと、オレたちはそこからボート会社の車に乗り空港へと向かった。
今回は、マルセロがボートのチケットを買う時に交渉してくれて、空港までの送迎付きだったので、タクシーの運転手たちと交渉する手間が省けた。
バリのデンパサール空港でチェックイン手続きを済ませ、早々と保安検査場も抜けるとレンボンガン島で初日に一緒にディナーをしたサムとマリアナのカップルに偶然発見した。ふたりも同じ飛行機でクアラルンプールに向かう。
少し話してふたりとは別れて待合室へ向かった。
バリでのテンションMAXのせわしない毎日から一時離れて、マルセロから課されたミッションをこなしにクアラルンプールへ向かう。
マルセロの、クアラルンプールは大都市だから目的のカメラの部品が見つかるだろうという安易な考えで、全くの手がかりなし。
初のマレーシアでオレとゆうやは、はたしてお宝を発見することはできるのか。
少し不安を覚えながらも、新しい土地に行くというワクワクを感じながら飛行機に乗り込んだ。