いつの間にかDJガールは帰り支度をしていて、一緒に来ていた友人とともに帰ろうとしていた。
やばい、せっかくの獲物に逃げられてしまう。
ハンターと化したオレは、気がつくと彼女の目の前に立っていた。男の本能がそうさせたのだろう。
しかし、何の策も練っていなかったオレは、コミュ力が皆無だった20代前半の頃のようにあたふたした。そう、いわゆる挙動不審というやつである。
笑顔と眼力で先程までまとっていたイケメン俳優ブラッド・ピットばりオレののオーラは消え、ジム・キャリーが変顔をしたときのような残念な感じになってしまった。(決してジム・キャリーを非難しているわけではない。むしろオレの外見は、ブラッド・ピットより果てしなくジム・キャリーよりだ)
それでもどうにか、ここ2、3年で磨いてきたコミュ力のおかげで「もう帰っちゃうの?」というありきたりな言葉を絞り出し、かろうじてDJガールに話しかけた。
「うん、仕事終わったからもう帰らなきゃ」
「え、じゃあ連絡先交換しようよ」
挙動不審なオレは「相手の事を知る」という大事なプロセスをすっ飛ばして、いきなり連絡先を聞いてしまった。これは野生ポケモンに遭遇した場合に、弱らせずにいきなりモンスターボールで捕獲しようとするくらい愚かな行為である。
普通なら女性に拒否される、ポケモンで言えば「ボールがうまく当たらなかった」ということになるのだが、この夜は神様がオレに味方していたようだ。
彼女の友達が「せっかくだから交換しておけば」と言ってくれたのである。天使に違いない。
彼女は照れながらスマホを取り出し、オレと連絡先を交換した。
自己紹介もせず、相手の名前も尋ねずに、連絡先を交換して初めて相手の名前は知った最低なオレ。神様はそんなオレを見捨てずに、ポケモンマスターになれる日までしっかりと見守ってくれそうだ。
オレは連絡先をゲットできて調子づいてしまっていた。
「ありがとう、ナヤとその友達。オレたち明日には別の町に行く予定なんだ。もう会えなくなるかもしれないから、このままどこか飲みに行かない?」
彼女はまんざらでもなさそうだったが、明日の朝も早いようで丁重に断られた。(本当だと信じたい)
「オッケー。じゃああとでメッセージするね。また会えたらいいね。おやすみ」
ナヤと友達(天使)は帰っていった。
はい、ポケモンで言えば「にげられた」っていう結果ですよ。酒に酔っているからだろう、神様が味方していると都合のいいように解釈していただけのようだ。
オレは気持ちを切り替えて再びカウンター席に座った。
リッキーがそろそろ飽きてきたようで、次の場所に移動しようと提案してきた。そこでオレたちはユナとリサに尋ねてみた。
「近くに楽しめるクラブはないかな?」
「このバーのすぐ隣が人気のあるクラブだよ」
「ふたりも一緒に行こうぜ」とリッキーがユナとリサを誘ってみたが、「行くかもね」という曖昧な返事が帰って来た。
確実に来ないパターンのやつや。
すでに気持ちはクラブへ向いているオレとリッキーは構わずに会計を済ませた。
ユナとリサは満面の営業スマイルでオレたちを見送ってくれた。
オレとリッキーは飲みかけのビール瓶を持って、疲労困憊の脚を引きずりながら隣のクラブへ向かった。
クラブはユナとリサが説明したように、先程のバーのすぐ隣にあり、入り口が奥の方へ続いている。
ガタイのいいセキュリティの黒人2人が入り口に立っている。クマのような体型のリッキーよりもさらに大きいし、筋肉質だ。オレたちの前を歩いていたグループがそのふたりの間を抜けて難なく中へ入っていった。
しめた。どうやら入場料を払わなくていいらしい。
オレとリッキーも同じように黒人2人の間を抜けて中に入ろうとすると、丸太のような極太の腕がオレたちの道を遮った。
「ダメだ」
意気揚々とクラブではしゃごうと思っていたオレたちは顔を見合わせて思った。
なぜだー!
果たしてふたりはクラブに入れるのか。
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