第72話 特大ミートパイによる弊害
サーフィンを終えて、僕たちはビンギンビーチから引き上げた。
すでにランチからだいぶ時間が立っていて、みな空腹なので、宿へ戻る前にディナーすることとなった。
特に1時間フルでサーフィンをした、正確にはほぼ漕いでいたのだが、僕の消耗っぷりといったらみんなの比ではない。特に、乳首の消耗、いや摩耗、いや、肥大ぶりは驚愕に値する。
以上の点を踏まえて、僕の空腹度はダントツトップであることは明らかだ。
ちょうど宿のすぐ近くにレストランがあった。
そのレストランは二階建てになっていて、一階が「PIZZERIA ITALIA」で、二階が「TOKYO BAR」の二店舗に分かれているようだ。
日本人の僕とゆうやが目につくのは、もちろん「TOKYO BAR」の方である。
バリ料理や西洋料理ばかりの毎日で飽きてきたことだし、ちょうどいいタイミングだ。やっと日本食が食べられる。ゆうやもきっと僕と同じ思いに違いない。
僕はどんなメニューがあるのかな、どの日本食を食べようかなと心躍らせながら、みんなのあとに続いて店に入っていった。
なるほど一階の店内から二階へ続く階段を上るのか。いや、一階のテーブル席で少し待ってから二階へ行くのか。一階と二階のレストランで提携しているに違いない。
大人気の「TOKYO BAR」だから、とりあえず待つだけの一階のはずなのに、ゆったりと席に座り、みな「PIZZERIA ITALIA」のメニューとにらめっこしている・・・・。
こら、お前らの目は節穴か。ピザとかハンバーガーとか、いつも食っているものだろうが。違いを求めろ。ここは日本食だろうが。
どうやら、古いバージョンの目を持つブラジル人たちには、「TOKYO BAR」の文字は全く見えなかったようである。
最初からブラジル人たちには、「PIZZERIA ITALIA」の一択だったようだ。
仕方なく、今日のところはジャンクフードで我慢することにした。僕はバリで似たような光景をかれこれ10回以上見ている気がするが、気のせいだろうか。
それぞれが好きなものを注文すると、しばらくしてリッキーのミートパイが先に運ばれてきた。
そのミートパイのあまりの大きさに、一同は驚きを隠せない。
顔がでかいリッキーの顔よりもはるかに大きいのである。これをひとりで食べるとは食いしん坊リッキー、恐るべし。
アレックスとビビも同じものを頼んだのだが、もちろん二人で一つを半分にして食べていた。
僕が頼んだハンバーガーも普通のサイズよりはるかに大きいはずなのに、特大ミートパイを前にしてはハッピーセットのハンバーガーくらいにしか見えない。
二つも特大ミートパイがテーブルにあるおかげで、僕のハンバーガーの味は悪くなかったのだが、量に対する満足度はだだ下がりとなった。むしろ、トータルではマイナスである。
結局、特大ミートパイが二つもあったがために、それをひとりで食べて満足気な表情だったリッキーを見たがために、「PIZZERIA ITALIA」で僕の食欲が満たされることはなかった。
みんなはすぐに宿へ帰っていったが、僕はひとりコンビニへ行き、パンとコーラを買って腹を満たした。
特大ミートパイのせいで、僕の食欲を満たすために余計なコストがかかることとなった。特大ミートパイと、それをおいしそうに食べるリッキーが許せないぞ。
宿に戻ると、マルセロがタイサを送り届けるために翌日の早朝に出発することを話した。
僕は一瞬、早起きしないといけないのかと思ったが、どうやら二人だけで行くらしい。
タイサは、元々ここまでみんなについてくる予定ではなかったが、マルセロの強引な「大丈夫だよ、なっなっな? 大丈夫だよな?」作戦に根負けして、どうにかダイビングショップから休みをもらっていたようだ。
ついにショップ側から戻ってくるよう要請があったというわけだ。
ついに、タイサがレンボンガン島に帰るときが来てしまった。
マルセロには申し訳ないからと、バレないように横目で見ていた巨乳タイサのおっぱいもこれで見納めとなるわけだ。
それならば、あからさまに見ておこうとも思ったが、好青年日本代表である僕なので、今一歩のところで思いとどまった。
ほんの2週間ではあったが、おっぱい・・・いや、タイサがいなくなると、寂しくなるものだ。
バリの旅も後半に差し掛かり、もうすぐ否が応でも「旅に別れはつきもの」ということを体験することになる。
これが予行演習となるのだろう。
タイサに別れの挨拶をして、部屋に戻って寝ることにした。
きっと寂しくて枕を濡らす夜になるであろう、と思ったのが、いつものように、リッキーの爆音いびきをBGMに熟睡してしまう僕であった。
ひとつ付け加えておくと、ゆうやは寝付けなかったに違いない。もちろん、爆音いびきのせいでしょうね。
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