第70話 サーフィンに挑戦

第70話 サーフィンに挑戦

 

 

僕にとって人生初のサーフィンに挑戦するわけで、さすがにサーフィンに関して無知のまま海へ出るわけにはいかないので、経験者であるアレックスからアドバイスをもらった。

あとはそのアドバイスを実践するのみである。

 

 

 

僕とマルセロ、リッキーは海にボードを浮かべ、そのボードに体を預けて手で水をかき始めた。これがあのパドリングというやつか。

初心者にはパドリングがきついというが、こんなのは楽勝で、ランチのあとではあるが朝飯前なのである。

 

 

 

と、思っていたのだが、3人同時に波乗りのポイントに向かってパドリングを始めたはずなのに、いつのまにか、僕と、マルセロとリッキーの距離が離れている。

ふたりはすでに、他のサーファーたちも集まっている波乗りポイントにいるのに、僕は一向にそこへたどり着けない。

 

 

 

きっと海の神様が、僕のピカイチのサーフィンセンスに嫉妬しているので、それを見せつけられたくないと波乗りポイントから遠ざけているに違いない。そんな理不尽な不可抗力に屈してなるものかと、僕はひたすら水を掻いた。

その勢いはきっと水力発電するのに十分なほどに違いない。

 

 

パドリングに夢中になっていると、背後から誰かが僕を呼ぶ声がした。パドリングでパンパンに張っている腕で振り向くのが辛いが、僕の必死のパドリングに感銘を受けたファンが僕を呼んでいるのだろう。振り向いてやらないわけにはいかない。

 

 

声の方を向くと、奥の砂浜にはアレックスが立っていた。なんだ、ただのアレックスか。

アレックスが人差し指を突き出している。おまえがナンバー1だ、そういってるのか。やはり、僕のパドリングといったら、わかる人にはわかるものなんだな。

そう思ったのだが、どうやら、そっちに行くんじゃないと言っているようだ。

 

 

 

こいつ何を言ってるんだと思った僕は、周りを見渡してみた。なぜかサーファーたちは、先ほどとは違うポイントにいる。

みんな、波乗りポイントが変わったから移動したのか、と思っていたのだが、自分の現在地を把握した僕はおしっこちびりそうになった。海だから別にブラジル流(ブラジルのビーチではトイレがないところが多いため、男性陣はトイレに行ってくると言って海に入る)にやっちまってもよかったのだが、それどころではない。

 

 

 

僕はありえないほど遠くに流されていたのだ。

アレックスが手招きして陸に上がるよう指示した。

 

 

「もう少しのところでロスト(行方不明)して死ぬところだったな」

 

 

 

笑顔でそう言うアレックスに笑って応えた僕の顔は、まるでちびまるこちゃんの野口さんのように笑いと表情がミスマッチだっただろう。はは、ははは・・・。

 

 

 

僕は気を取り直して、自分の現在地をこまめに確認しながら波乗りポイントへ向かった。このときすでに、スタートから30分以上経過していた。

初挑戦といえども、パドリングだけで終わってなるものか。凡人なら妥協してしまう疲労度だが、僕の結果に対する執着心が発動した。パドリングする力、パド力は水力発電で一般家庭2世帯分をカバーできるほどの威力を発揮した。

 

 

 

ようやく波乗りポイントにたどり着いたのだが、マルセロとリッキーが疲れたから陸に上がるというのである。

僕はまだ波に乗れてないので帰るわけにはいかない。

 

 

いいぞ、オレを残して先にいけ。

男には逃げてはいけないときがあるのだ。それは波に乗れてないときである。あの発明王のエジソンも、人生に失敗した人の多くは、諦めたときに自分がどれほど成功に近づいていたか気づかなかった人たちだ、と名言を残しているではないか。

 

 

 

そういう僕は、まだ波乗りポイントに辿り着いただけで、ボードすら波に乗せきれていないので、まだ失敗すらさせてもらっていない。こら、エジソン。

 

 

 

今の状況にエジソンに八つ当たりしたくもなったのだが、死者は何も語らない。男は黙って挑戦あるのみ。

僕は他のサーファーたちがやっていることを見よう見まねでやってみた。乗りたいほどよいサイズの波が来るまで待つ。

そんなに大きい波があるわけではないので、初心者の僕にもできるに決まっているのだ。

 

 

 

狙い目の波が来ると、僕はパドリングを開始した。

波がボードをぐっと押してくる。その瞬間、うつ伏せ状態から一気にボードに立ち上がろうと試みた。しかし、うまくバランスが取れず、海にドボン。

足首に巻いているリーシュコードと呼ばれる紐がボードと体を繋いでいるのはわかるが、足も届かない海の真ん中に落ちて僕は焦った。

 

 

 

ボードはどこだ。パドリングで体力を消耗しすぎてうまく泳げそうにない。早くボードを見つけなくては。やばい、溺れる、溺れる・・・

あれ・・・、足が届くぞ。

落ち着いて周りを見ると、海のど真ん中であるはずなのに、ちらほら歩いている人がいるではないか。

 

 

 

 

なるほど、遠浅ではないか。こら、エジソン。

とんだとばっちりを受けてキョトンとするエジソンは頭の片隅に置いて、自慢のGショック(防水)を見ると残り時間15分となっていた。最低1回はボードに立ちたい。

 

 

 

と、その時、僕の肩をたたく巨乳のお姉さんが現れた。神が使わせた天使に違いない。

私の力で君をボードに立たせることはできないが、がんばってる君にサプライズだ。君の息子を勃たせてあげよう。という声が聞こえた気がしたが気のせいであった。

 

 

「ユウマ、大丈夫?」

 

なんだ、タイサか。マルセロと入れ替わってやってきたようだ。

 

 

「うん、大丈夫だよ(お前は波じゃなくて、マルセロにでも乗ってろ)」

 

 

そのままタイサのおっぱい・・・じゃなく、お尻・・・ではなく、華麗な波乗りっぷりケツを見ていたのだが、それを見ていたい気持ちはあったのだが、自分の挑戦のほうが大事だと気持ちを切り替えた。

 

 

お父さん、僕を見捨てるんだね、と息子の声が聞こえてきた。

 

息子よ、お前は勃ってはいるが、ここではおまえは役勃たずなんだ、すまないが引っ込んでてくれ、と僕は息子を制した。

 

 

 

その後、時間いっぱいで何度も挑戦して、生まれたての子鹿のようではあったが、2回ボードに立って波に乗ることができた。

 

 

 

僕はサーフィン初挑戦の結果に満足して、陸に上がった。

 

 

 

 

 

 

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