第82話 戦場を駆ける

第82話 戦場を駆ける

 

 

僕たちは、ついにスカイガーデンという名の戦場に足を踏み入れてしまった。

 

まあ、ただのナイトクラブなのだが、男にとっては戦場も同然である。世の中に、クラブでワンチャンを狙わない男がどこにいるというのだろうか。狙わなくとも、期待はしているだろう。

純粋に音楽を楽しんだり、みんなで騒ぎたいだけだと言い張る男がいたら、私は、男なら必ず2つ持ってる希望という名の玉をひとつ、この表情で握り潰さねばなるまい。

 

 

 

 

なお、僕は今までに、女装も含め一度も女の子になったことがないので、女の子のクラブ事情は知りません。

ということで、ここからはすべて男目線で話を進めていきます。

 

 

スカイガーデンは2階から4階までがクラブになっているようで、普段どれくらい人が入っているのか知ったこっちゃないが、今夜は大晦日、カニのように半身にならないと歩けないくらい人でいっぱいだ。

女子のいい香り、男子のどぎつい香水の香り、男子のどぎつい体臭の香りなど、さまざまなニオイが入り混じっていて、僕は一瞬吐き気を催した。

僕が人混みが苦手なのはこのせいもあるだろう。

 

 

僕たちはまずカウンターで、お馴染みのビンタンビールを手に入れて乾杯。それからダンスフロアに移動した。

 

ダンスフロアは満員電車状態になっていて、まったく踊るスペースなどなく、人々は飛び跳ねることしかできない。やつらは単なるポケモンのコイキングだ。(技が「はねる」だけ)

 

なぜバリまで来て、沖縄でしなくてもいい満員電車状態を体験しなければならないかは疑問だが、僕たちも他のコイキングに紛れてはねまくった。

 

僕は他の誰よりもはねまくった。まるで、活きのいい魚のように。コイキングだけに。

 

いま、この瞬間を楽しむのだ。

狙った女子(えもの)は逃さない「恋キング」にはなれなくても、誰よりも高く、高く、跳ねる「鯉(こい)キング」にはなれるはずだ。

 

と、僕が無我の境地に入って飛び跳ねていると、リッキーが、僕の神聖な踏み入れてはならない、誰も犯せない領域に土足で入ってきて一言いった。

「酒を買いに行くぞ」

「はい」

 

 

リアル鯉(こい)キングになり損ねたが、まあよかろう。夜は長い。焦らずに楽しんでいこう、そう自分に言い聞かせていたが、リッキーの飲むペースは上がっていき僕は何度も呼ばれた。

その後は、さすがに連れション要因的な扱いにうんざりしてきたので、僕はリッキーに気付かれないように、徐々に距離をとっていった。

 

 

他のフロアも気になるので、僕はリッキーを残して歩き回った。

 

 

他のフロアへ続く薄暗い通路を通った際、2、3組の男女が情熱的なキスをしていた。男が壁ドンをして、女が男の腰に手を回している。

くそう、僕がじゃんけんで勝ったら、ぜひとも選手交代してほしい。

あまり見すぎては失礼なので、僕は横目でじーっと見ながら通り過ぎていった。

 

 

通路をくぐり抜けると、そこは天国でした。僕は別世界に来た感覚に襲われた。

目の前にはステージがあって、等間隔にあるいくつかのポールでセクシーな女性がポールダンスをしている。

ステージの周りには、鼻の下を伸ばした男どもが口を開けてニヤけながらダンスを眺めている。かくいう僕も、彼らと同じ表情になりつつあるのを感じる。

 

 

うまくスペースを探して、変態おやじどもの間に入り込んで、僕も変態おやじと化した。30分以上は眺めていたと思う。

十分にセクシーな大人のダンスを堪能したのだが、ほとんどのダンサーたちが細身であった。

欲を言えば、過去に何度もブラジルに行ってダイナマイトボディに慣れている僕からしたら、もう少しふくよかで、ボン・キュッ・ボンな感じであって欲しかった。

 

 

ポールダンスエリアのすぐそばもダンスフロアがあって、メインフロアほどではないが、たくさんの人々が踊っている。

誰でも上がれる大きなステージもあって、目立ちたがり屋の酔っ払いどもが男女ともに踊り狂っている。

 

その顔ぶれには、なぜか見覚えのあるやつがひとりいた。でかい図体だがキレのあるダンスを披露している。

リッキーではないか。いつのまにこちらにやってきたのだろうか。

 

 

ステージにリッキーがいることで、臆することなく僕もいつのまにかステージに上っていた。お酒の力とは怖いものだ。

リッキーが僕に気づいて、ハイタッチをかます。そこから僕の求愛ダンスが始まった。

見るに堪えないダンスではあったが、周りの金髪美女やラテン系褐色美女たちに気に入られようと、満面の笑みを振りまいた。

 

彼女たちも眩しいほどの笑顔を僕に返す。まじで、ほれてまうやろー。その笑顔の美しさたるや、リッキーと同じ人間とは思えない。

しかし、曲が終わると、彼女たちの振りまいてくれた眩しい笑顔は幻のように消え、僕なんか存在しないかのように、彼女たちは僕に見向きもせずにステージを下りていった。

 

「おう、ゆうま。お前もここに来たんだな」

美女たちのかわりにリッキーが僕に声をかけてきた。決して美女のかわりは務まらないが。

「あのポールダンサーたち、かわいいな」

やはり、男なら誰もが見てしまうポールダンスを、欲の塊であるリッキーが見逃すはずがなかった。

 

「オレはもう少しここで踊ってるから、なにかあったら呼んでくれ」

なにかって何だよ。美女がいても教えてやるものか。ただでさえ高くない僕のワンチャンの確率が、貪欲なライバルの出現により、限りなくゼロに近づいてしまうじゃないか。

「またあとで」

 

 

僕はリッキーをほっといて、次のフロアへ移動した。

 

 

 

 

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