第85話 DJガールとデート

第85話 DJガールとデート

 

 

2017年、僕は最悪の二日酔いと共に、昼過ぎに目を覚ました。

年明け早々のこの日は、2017年が僕にとってどんな年になるかを象徴するかのようなできごとがあった。

 

 

ふとスマホを見ると、ウブドで僕の眼力によって連絡先を交換していたDJガールからあけおめメッセージが来ていたのだ。

 

※僕はウブドでお姉さんに遠距離から見つめる攻撃をしただけで、催眠術などできませんのでご了承ください。まあ、この結果からするに、僕の眼力は催眠術に匹敵するほどの威力がある感は否めませんけどね。

 

彼女から連絡してきたので脈アリに違いない。僕はここぞとばかりにディナーに誘ってみた。すると、相手もなかなかノリ気で、すぐに一緒にディナーに行くことが決まった。しかも今夜。

 

 

この時僕は本気で思った。2017年、間違いなくオレの年になる。

あまりの嬉しさに飛び跳ねたい気持ちでいっぱいだが、激しく動くと二日酔いで頭がズキズキ痛むのでやめておいた。

 

 

決戦の夜はすぐに訪れた。

重要なイベントがあることによって、僕の体は驚愕の回復力を発揮した。夜には頭痛も体のダルさもなくなり、活動可能なレベルまで回復していた。

 

 

クタのとあるスーパーで彼女と待ち合わせ、僕は店の前のベンチに腰を下ろして彼女を待つことにした。

やはり、初デートはいつも緊張するもので、どんなことを話そうかなどと、頭の中でいろいろなパターンでシミュレーションが繰り返される。

 

 

そうこうしているうちにDJガールは到着して、目が合うと手を振ってきた。

ウブドではお酒の力もあってどうにか話せたのだが、僕は激しい緊張感に襲われ、さきほどまでのシミュレーションしたいくつものパターンは忘れ去っていた。

 

 

とりあえず、彼女の案内でクタのとあるレストランで食事することになった。もちろん移動はスクーターである。

物理的な距離を縮めることは、二人の距離を急激に縮めることになる。風はオレに吹いている。2017年は間違いなくオレの年だ。

 

僕は自身を持って彼女を後ろに乗せてスクーターを走らせたのだが、走らせて5分もしないうちに、彼女は甘い香水の香りを漂わせて、甘い声で僕の耳元で囁いてきた。

 

 

「運転代わりましょ♡」

 

僕のライディングスキルの低さがすぐにバレてしまったのだ。バリで毎日のようにスクーターを運転している彼女のスキルに僕が敵うはずがない。

 

 

ここで、男なら女の運転するバイクに乗るくらいなら死んだほうがマシだ、などと変なプライドを持つやつがいるが、僕には、そんな昭和のような男らしさといった概念やプライドなどない。

むしろ、女性が運転して男性が後ろの場合だと、女性の腰に手を回してスキンシップがはかれるではないか。

これは、すでにサヌールでタイサと体験済みである(「卑猥な3ケツ」参照)

 

 

僕は彼女の提案に躊躇なく即答した。

「はい、よろしくお願いします」

 

 

運転を代わると、彼女の華麗なライディングスキルによって渋滞もなんのその、スムーズにすり抜けていった。

 

レストランで僕たちはゆっくりと二人の時間を楽しんだ、と言いたいところだが、途中で彼女の友達の夫婦とバッタリ会ってしまって、4人で食べることになってしまった。

 

 

こうなってくると、たださえ3人以上のグループでは話す側よりも聞く側に回ってしまう僕は、話にうなずいたり笑ったりするだけの観客になってしまった。

しかも、3人ともインドネシア語で話すもんだから、僕には話の内容がさっぱりわからない。

 

 

彼女たちはかなり久しぶりに会ったようで、なかなか話が終わらず、僕たちは二次会で居酒屋のような場所に移動した。僕はビールを飲みながら、またもやリアクションするだけの観客にならざるを得なかった。

 

僕は心の奥底から思った。もう帰りたい。この拷問はいったいなんなんだ。いっそのこと殺してくれ。

 

僕の願いが通じたのか、やっとのことで夫婦たちは帰っていった。

 

そのあとDJガールは、彼女の友人が働いているというあるバーに連れて行ってくれた。

そのバーはなんとオカマバーで、店内にはいくつもポールがある。曲が流れるとセクシーな格好をしたおっさんたちが現れ、それぞれの持ち場でポールダンスを始めた。

 

 

それがもし、セクシーなお姉さんなら見入ってしまうかもしれないが、踊っているのは、露出度が高い服を来て厚化粧をしたただのおっさんである。いくらか需要はあるのかもしれないが、僕は全く興味がない。

美しいものだけしか見たくない僕の目が腐ってしまいそうだ。

 

 

DJガールよ、なぜオレをここにつれてきた。さきほどから、まだ一度もこのデートで楽しいと感じる瞬間がないぞ。

デートは男が女を楽しませようとがんばらないといけないのか。絶望的なこの状況でどうしたらいいのか、僕にはわからない。

 

 

結局、今夜のデートでの僕の役割は、終始、彼女が友人としゃべるのを横で聞いて、タイミングよくリアクションするというものだった。

 

 

僕はいろんな意味でのヤル気を失い、失意のままデート終了となった。

別れ間際、彼女が情熱的なハグをしてきたが、二日酔いで万全の体調ではなかったのに加え、拷問を受け続けた僕の体と精神には、もはやエネルギーは残されてなかった。

 

 

 

またもや収穫ゼロの僕は、クタの宿へ向けてスクーターを走らせた。

2017年、オレの年にならず。

このあと、追い打ちをかけるように、さらなる試練が僕に襲いかかってくるのだった。

 

 

 

 

 

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