クレイジーハロウィン第11話 電車内でのオリンピック

クレイジーハロウィン第11話 電車内でのオリンピック

 

 

オレたちは電車に乗って帰路についた。日曜日の朝8時過ぎ。電車の中は、オレたち以外に2、3人の乗客がいるだけで、ほとんど空っぽで静かだった。朝の静かな電車の中に、普通のトーンで話すオレたちの声だけが響いていた。

 

 

 

「ねえ、みんなこれできる?」

まだ元気が余っているエイミーが、眠そうな顔をしているオレたちに声をかけた。2つのつり革をしっかりと握り、突然、助走をつけると勢いよく逆上がりをした。

うわ、こいつやべえな。ぶっ飛んでる! でも、楽しそうだな、やってみよう。

 

 

 

恥ずかしそうに遠慮しているジンとハンを横目に、オレはしっかりとつり革を握り、一歩後ろへ下がった。それから足を踏み出してジャンプ。一瞬にしてぐるっと一回転できた。「やるわね」エイミーの言葉が嬉しくてちょっとニヤケてしまった。

朝の電車でつり革で逆上がり。この状況、明らかにおかしい。でも、なんか楽しいぞ。

 

 

 

「ジン、ハン。次はあなた達の番よ」

「いや、遠慮しとくよ」

ふたりは席に座ったまま恥ずかしそうな顔をしている。

「もしかして、逆上がりできないの?」

「いや、できるよ。でも・・・」

「周りにほとんど人はいないから、誰にも迷惑はかからないわ。楽しいからやってごらん」

 

 

 

しばらくためらっていたふたりだが、ついに意を決したようで、席を立ち上がってつり革を掴んだ。ふたり揃ってぐるっと回った。

「やればできるじゃない。今度は全員で一緒にやりましょう」

エイミーがそう言うと、オレたちはつり革を握って位置についた。

 

 

 

「せーの」エイミーの合図でオレたちは、同時にぐるっと回った。どうやら最高の演技ができたようだ。着地した瞬間、近くの席から見ていたおじさんが、笑顔で拍手を送っている。

さっきまで眠気と疲労でぐったりしていたが、電車のつり革で数回逆上がりしただけで、とても楽しい気分になっていた。

 

 

 

そのあと、ジンとハンは途中の駅で下りて別れた。オレとエイミーも2、3つ先の駅で下りて、彼女のアパートへ向かった。

 

 

 

エイミーとの約束どおり、リビングにかかっているハンモックに寝かせてもらうことになった。あわよくば、エイミーと一緒のベッドで添い寝できないかなあとも思ったが、エイミーはオレに毛布を渡すと、「おやすみー」とさっさと吹き抜けの2階にある寝室へ上がっていってしまった。

 

 

 

ハンモックで寝るのも初めての体験だし、まいっか、と無理やり自分に言い聞かせて、ハンモックに上がってミノムシのようにくるまった。そして、すぐに深い眠りに落ちた。

 

 

 

どれくらい時間が立ったのかわからない。突如目が覚めた。そして、ふくらはぎがつる寸前であることに気がついた。

やばい! つるつるつる。どうしたらいいんだと迷っているうちに、3、2、1。ビリビリビリ。

思った通り、ふくらはぎがつって耐えられないほどの激痛が走り、思わず大声で叫んでしまう。

「あががががががが(沖縄の方言で痛いの意味)!!!」

 

 

 

「ゆうま!! どうしたの? 大丈夫?」

エイミーが起きて2階から覗き込んでている。オレは訳を説明してから、ハンモックでは寝る体勢がきついので、ハンモックから下りて床で眠ることにした。

 

 

 

心配したエイミーがオレの様子を見に二階から下りてきて、そのままじゃ冷たいからと、床にシーツを敷いてくれた。人間、弱っているときに優しくされると、その人をあたかも天使かと錯覚してしまうもので、その時のエイミーはまさしく、オレにとっての天使だったのである。天使がくれたシーツの温もりを感じながら、再び目を閉じた。

 

 

 

目が覚めると、すでにお昼を過ぎていた。二日酔いで少し頭痛がする。

エイミーはまだ寝ているようだ。

「エイミー、もう3時半だよ!」

暗くなると、彼女と約束していたトレッキングに行けなくなる。時計をみて焦ったオレは、叫んで彼女を起こした。

 

 

 

さきほどシーツをくれた天使は、ゾンビのようにゆっくりと、寝起きの寝ぼけた顔で1階に下りてきた。それからオレたちは支度をして出発した。