第35話 寝るのは死んでから!?

第35話 寝るのは死んでから!?

 

 

宿に戻ってマルセロがオーナーのおばちゃんに、ウブド観光はどんなものがあるのか尋ねてみた。オレたちは、おばちゃんが紹介してくれたうちのひとつから、なんとなくおもしろそうなアグン山の登頂を選んだ。特に細かい情報は聞かなかった。

それが災難の始まりだったのは、このときは知る由もない。

 

 

 

アグン山へ出発するのは今夜12時。ここから1時間車で移動して、現地でガイドをつけて登頂する。オレにとっては人生初の登山で、しかも夜の登山。おもしろいことになりそうだ。

 

 

 

今は夕方5時。出発までにはだいぶ時間が空いている。せっかくウブドに来たのだから、街を散策しなきゃ意味がない。ふと、先程のピザ屋さんに飾ってあった看板を思い出し、知らないうちにオレの思考に影響したのだろうと思った。

「コーヒー!! 死んだあとに好きなだけ寝ればいい」

 

 

 

 

今を楽しまなきゃと街に出ることにしたのだが、乗り気なのはゆうやとリッキーだけで、マルセロとタイサは登山に向けて休息を取ることにした。オレたち3人はさっそく街へと繰り出した。宿から大通りに出ると、周りにはたくさんの観光客で活気に溢れている。

 

 

 

通りにはいくつもお土産屋さんが並んでいて、オレとゆうやはあまり興味がなかったのだが、リッキーに連れられて、その中のひとつを覗いてみることにした。おみやげに興味がないオレとゆうやに、自己主張の強い商品が否が応でも目に飛び込んできた。

 

 

ち◯この形をした栓抜きである。笑 シンプルなものからカラフルなものまで、いろいろなデザインのものがある。しかも形まで本物そっくりである。残念ながら、自分のものは大きさから形まで完敗である。

 

 

 

どこのお土産屋さんを見ても必ず取り扱っている商品のようだ。というのもバリでは、男女の性行為は世界の秩序に調和をもたらすという考えの性器崇拝があるらしく、それによってち◯こ栓抜きが大量に売られているようだ。それにしても、ち◯こ栓抜きの自己主張が強すぎて、他の商品が全く目に入らない。目のやり場に困ってしまった。

 

 

 

1時間ほど街を散策して一度は宿に戻ったのだが、やはり休む時間がもったいないような気がして、リッキーと一緒に再び飛び出した。コーヒーの看板恐るべし。オレに強い暗示をかけてしまったようだ。

今度はリッキーとおもしろそうなバーを探すことにしたのだが、まだ飲むには少し早いようで、賑わっているバーがほとんどない。

 

 

 

1時間ほど歩き回って、オレたちは、若い女の子ふたりが呼び込みをしているおしゃれなミュージックバーで足を止めた。バーの入り口は壁などなく、大きく開いていて中の様子がよく見える。バーの中は、薄い水色の照明で夜の大人の世界のムードを演出していて、音楽がよりいっそう雰囲気を盛り上げている。

 

 

 

まだ早い時間なのであまり客も入っていないようだったが、雰囲気が良くて、女の子もかわいかったので、オレとリッキーはカウンター席に座った。オレはブラジルのカクテル「カイピリーニャ」をメニューに見つけてそれを頼み、リッキーはいつも通りビールを始めに頼んだ。

 

 

 

まだあまり客がいなかったので、目の前でカイピリーニャを準備してくれたバーテンダーに聞いてみた。

「このバーは、もう少し遅い時間になったらもっと人が入って盛り上がる?」

「そうですね。まだ早い時間で人がいないですけど、もう少ししたら、もっとお客さんが入ると思います。バリに来てもう素敵な女性はゲットしましたか?」バーテンダーが笑顔で聞いてきた。

オレとリッキーは同時に首を横に降る。

 

 

 

「あとからもう少しお客さんが来ると思いますので、きっとチャンスはありますよ」バーテンバーはにっこり笑った。

「いや、実は・・・このあと登山が控えているので、ここに長居はできないんです。あと1杯飲んだら帰ります」

「それは残念です。まあ、少しの間だけでも楽しんでいってください」

 

 

 

頭では、早めに帰って少しは体を休めたほうが良いとわかっているのだが、体がそうはさせまいと飲むスピードが一向に上がらず、なかなかグラスからお酒がなくならない。

そんなときに、さらにバーにとどまる原因となる、先ほどの呼び込みをしていた女の子たちが、あまり客がいないのでやることがなく、オレとリッキーの元へとやってきたのだった。