第36話 踊り明かしたいのに・・・
- 2018.10.06
- バリ島の大冒険

ウェイトレスのふたりがオレたちの元へ来ると、オレとリッキーは彼女たちに自己紹介した。
「こんばんは。ゆうまとリッキーだよ、よろしく。ふたりの名前は?」
ウェイトレスのひとりは、少し大人の女性のオーラを出しているユナ、そしてもうひとりが、まだあどけなさが残る少女のようなリサ。ふたりとも綺麗な長い黒髪をなびかせている。年はおそらく20前半だろう。アジア人特有の童顔なので、ロンドンに住んでいて、イギリス人を見慣れているリッキーには、ふたりとも幼く見えたかもしれない。なかなかオレのタイプである。
ふたりは、入り口での呼び込みとホールでのサーバーを交代ずつやっているようだった。オレたちと少し話しては、仕事に戻ったりしていた。まだ時間が早かったので、幸運にも今のところこれ以上は客が増えなくて、女の子たちと長い間話せた。アグン山に出発する前には帰って、少しは休憩ができるように、時折、時計を確認しながら飲んでいた。
そろそろ帰ろうかとリッキーに声をかけようかと思ったとき、それを察したのか、リサが「次は何を飲みますか?」と聞いてきたのだった。彼女の言葉によってオレは、のどから出かけていた「帰ろうか」というリッキーへの言葉を引っ込めた。
もう一杯ブラジルカクテルのカイピリーニャを頼んで、もう少しここに残る決心をした。
カイピリーニャを飲んでいると、オレがブラジルにいた頃の思い出がいろいろと蘇ってくるのだった。ブラジルでの年越しの夜、カイピリーニャやビールを飲みながら近所を歩き回って、新年を祝ったことが思い浮かんできた。ブラジルでの思い出に浸っていると、近くに座っていたカップルが席を立って、フロアで曲に合わせて踊り始めた。
それをぼーっと眺めていたオレとリッキーは、ブラジルのダンス好きの血が騒ぎ始めて、居ても立ってもいられなくなった。
そしてついには、ふたりもフロアに立って踊り始めた。ブラジル人のリッキーはしっかりとしたダンスなのだが、オレはというと、お世辞にもダンスとは言えず、リズムに合わせて適当に踊るだけ。
オレたちで楽しく踊っていると、ユナとリサ、しまいにはセキュリティのおっちゃんも、オレたちの輪に入ってきて踊り始めた。それから、周りにいた他の客も踊り始めるのだった。
なんだ、この一体感! ハンパない!
みんなでワイワイと騒いでいる中、奥の席の方からオレのことを見て笑っている女性を発見した。最初は恥ずかしくて、その女性と目を合わせないようにしていたのだが、だんだんと気になってちら見してみた。まだ女性はオレの事を見ている。
女性の隣には、友達かパートナーなのかはわからないが、男性がひとり座っている。
その先どうなるかはわからないけど、オレはとりあえず目力を込めて、遠距離から女性を見つめて微笑んでおいた。それから、ダンスのスピードを上げて、女性におもしろおかしくアピールした。オレの狙い通りに女性は大爆笑してくれた。きっとこの先、何かが起こるかもしれないな。
そうこうしているうちに、アグン山へ出発する30分前になったので、さすがにまずいと思い、周りに帰ることを伝えてリッキーとともに宿へ戻った。
宿に戻ると、すでに出発の準備をしていたゆうやが、オレとリッキーの帰りの遅さに驚いた。オレは、登山なんかすぐ終わるから大丈夫と余裕をこいていた。
オレとリッキーもすぐに準備にとりかかった。山では寒いことが予想されるので、長袖の上着、長ズボン、サッカー用の長いソックスで完全防備だ。さすがに登山用の靴まではなかったので、代わりにランニングシューズを履いた。それから、念のためにダウンジャケットも用意しておいた。これで準備は完璧だろう。
すでに迎えの車がきていたので、マルセロとタイサも外へ出てきて、全員車へ乗り込んだ。オレは3列シートの後ろのほうにすわり、車が出発する前にすぐに仮眠モードに入って目を閉じた。
午前0時、オレたちは、今までに体験したことのない過酷な登山が待っているとも知らずに、アグン山へと出発した。
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