第92話 ダークエンジェルを強制送還

第92話 ダークエンジェルを強制送還

 

 

翌朝、みんなより少し遅めに僕が目を覚ますと、グループの中で一番年長であろうアレックスが真剣な表情でディーバを説得していた。

アレックスの説得が終わると、正式に「ディーバ、強制送還」が決定した。

 

今日はウブド周辺を観光する予定だが、その時間が短縮されることを考えても僕たちグループにとってはディーバがいない方がいいという結論に至った。

 

ディーバは昨夜、ケビンの部屋で寝たようだが、そこに男女の交わりはなかったように思う。なぜなら二人の接し方には、体の関係を持ったあとの男女の物理的距離感、親密さといったものが見受けられない。

責任感の強いケビンの発言からも何もなかったことが伺える。

 

「ディーバを誘ったのはオレだから、オレがディーバをデンパサールまで送り届ける。ユウマ、すまないが手伝ってくれないか?」

責任感の強いケビンだが、やっとスクーターの運転に少しなれたばかりでまだ2ケツはできない。そこでグループの他のメンバーより強い信頼を築けている僕に助け舟を求めたわけだ。

 

僕としても、僕がケビンをバリに誘ったのでケビンのことについては僕に責任がある、という認識からではなく、単に運転が楽しいから引き受けることにした。

 

ディーバはリッキーに別れの挨拶を交わすと、アレックスとビビのことは無視して宿を出た。

 

僕がヘルメットを渡すと、彼女は最後の悪あがきをしてきた。

「ケビン、私、こいつの後ろは嫌よ。あなたの後ろに乗せて」

「・・・」僕は何を言えばいいのかわからなかった。言葉にできない。

 

僕が彼女に何をしたというのだ。確かに半乳出ていたのを時折チラ見していたのは認める。男の本能だからしょうがない。しかし、それ以外に彼女に悪いことをした覚えはない。

今思えば、彼女は人々に対して白か黒、好きな人と嫌いな人ではっきり分けていた。それが彼女の性格なら、僕には変えられない。僕は口を閉ざすことにした。

 

彼女はケビンの後ろに乗った。ケビンは僕に対して「本当にすまん」という表情をしていた。

 

僕がケビンを先導してデンパサールへと向かった。

 

2ケツに慣れていないケビンのために、僕はスピードを落として先導し続けた。2時間弱かかってようやくデンパサールに着いた。

 

このあとウブド観光があるので、ウブドに残るメンバーたちのためにも素早く引き返さなければならない。よって、別れの挨拶は手短に済ますべきなのだ。

ホステルの前でディーバとケビンが恋人同士のような熱い抱擁を交わしたあと、ロスした分の時間は僕の部分でカットされた。要するに、ディーバは僕を無視してホステルに入っていったのだ。

 

「BYE! HAVE A NICE DAY! (良い一日を)」

僕が何を言っても彼女には聞こえないようだった。僕の声は誰に届くでもなく虚しく響いた。

 

帰りは僕とケビンは1時間半でウブドに着いた。

寺院巡りより先に昼食となったのだが、話題はもちろんディーバのこととなった。

 

一番彼女と会話したケビンとリッキーによると、はっきりとは言わなかったが彼女はドバイでコンパニオンの仕事をしているとのこと。普段は金持ちについてあれこれと接待するらしい。

 

ディーバとインスタグラムを交換したケビンが彼女の写真を見せてくれた。写真はギリギり乳首が見えない過激なものから、セクシーなドレスを着た過激なものまで、過激なもので埋め尽くされていた。

 

すぐに彼女はエスコートガールであるという結論が出た。

 

※エスコートガールとは、お金を払って性的なサービスを提供する女性のこと。日本で言うならデリヘル嬢。

 

彼女が競争社会で生き残るには、媚を売って人々に気に入られるしかなかったのだろう。もしくは、幼少期に両親に放任され続けた結果、かまってもらうために身につけた彼女なりの生きる術かもしれない。

 

勝手な憶測にすぎないが、僕たちは彼女に深く同情した。

僕たちは何も彼女にしてあげられない。この生き方を選んだのは彼女自身だ。まだ20歳前後だし、これからいろいろと経験をして変わる可能性もある。

 

ディーバは今までに会ったことのないタイプの人間だったので、僕にとって非常に考えさせられる良い経験となった。

今後このような女性と出会ってもうまく接することができる自信はないが、少なくとも驚きはしないだろう。

 

僕はバリで強くなる。どんなに罵られようとも強いメンタルを持つのだ、と思いたい。

僕だって無視されるとさすがに傷つくので、傷が癒えたら実践していこうと思う。

 

 

 

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