第97話 ひとりで過ごすことの本当の意味

第97話 ひとりで過ごすことの本当の意味

 

 

マッサージのおかげで夜はぐっすりと眠れ、翌朝には体の疲れがすっかり取れていた。

しかし、滝ジャンプの挑戦の証が、僕の体にしっかりと残っていた。

 

 

 

腕にあざができていたのだ。やはり僕の着水の仕方が悪かったようだ。お尻にもあざができる可能性はあったが、お尻は無事だったので写真には収めていない。読者にお見せできないのが誠に残念である。

 

このあざ、よりによってハート型(強引なこじつけではあるが)にできるとは、もしかしたらバリの神様が僕にメッセージを残してくれたのかもしれない。

「おまえは強いハートを持っているのだ。これからも何事にも強い精神力で望むのだぞ」

という意味だろう。

 

しかし、よくよく考えると、すごくダサい。ちょっと間違えたらニューハーフのお姉さんやゲイの人にモテてしまうかもしれない。これまでに、よくゲイの疑いをかけられてきたが、僕はストレートに女性が好きだ。女好きだ。(この場合、この表現のほうがわかりやすいだろう)

治るまではあざを隠そうと思う。うっかり、僕は15メートルの滝からジャンプしたんだ、これが証拠だ、なんて具合に男性に見せてモテてしまっては大変である。

 

ちなみに、このハートボタンを押すとあまりの気持ちよさ・・・ではなく、あまりの激痛に僕は喘ぎ声・・・ではなく、悲鳴をあげてしまうだろう。体のダメージがあざに集中している。

 

あざのことはこれくらいにして、話を進めようと思う。

 

僕たちはウブドを出て、再びサヌールに戻ってきた。

アレックスとビビはビーチにある宿を予約していたので、僕とリッキーもとりあえずそこへ行き、みんなでランチを食べることにした。

 

僕はランチの場で、ある決意を表明した。その決意とは、残りの日数を自分ひとりだけで過ごしたい、ということだ。

旅行で短期間ならグループで行動するのもありだと思う。しかし、長期間グループで過ごしていると自分のペースで物事が進められないので、だんだんとストレスになってくるのだ。

 

僕にとって、今がちょうどそのときなのだ。僕は普段みんなに合わせるタイプでほとんど自己主張はしないのだが、この時ばかりは、ひとりで過ごしたい意向をはっきりと主張した。

 

僕の主張を聞いたリッキーは少し驚き、それからなんだか悲しそうな顔になっていた。

オレはこれからどうしたらいいんだよ、とでも言いたげな表情だ。

 

ここで助け舟出してくれたのがアレックスだった。

 

「リッキー、グループ行動も大切だけど、ひとりの時間も大切だよ。ひとりのときの方がこれまでのことを振り返ったり、いろいろ考えたりできる。きっとユウマは、今がそのときなんだよ」

 

さすがアレックス、グループ最年長だけのことはある。

アレックスの言葉にリッキーは納得したようだった。それでも、今夜どこに泊まればいいのか、でまだ困惑しているようだ。

 

そこでも再びアレックスが助け舟を出した。一晩だけならアレックスとビビの部屋に泊まっていい、というのだ。

なんと心の広いことだろう。僕がもし女の子とバリに来ていたら、間違いなく拒否している。

 

しかし、彼の優しさ溢れる行為を、あとでアレックス自身が後悔することとなる。

 

 

その夜、僕はFacebookにこんな投稿をした。

 

 

「新しいヘアスタイルにしました」

おもしろくもなく、あまり反響のなかった投稿ではあったが、珍しくアレックスからのコメントがあったのだ。

 

「なぜ君がひとりで過ごしたいと言ったのか、本当の意味を理解したよ。夜のリッキーは本物のモンスターだ。だからオレは午前4時半のいま、まだ起きていてコメントしている」

 

リッキーの豪快ないびきで眠れないらしい。

 

アレックスよ、安らかに眠れ。アーメン。あ、眠れないのか。

 

僕がリッキーと別れてどこに行ったのか、勘のいい読者なら察しがつくだろう。

僕はインディホテルに滞在した。インディホテルではゆうやがひとりで過ごしていたので、迷惑でなければ部屋をシェアさせてくれ、もちろんリッキーはいないから、と僕は頼んでいたのだ。

 

当然僕は部屋代を半分負担するつもりでいたのだが、この時、カードを使ってATMで現金が下ろせないという問題に直面していて、支払いをすべてクレジットカードでしていた。

そのことを知ってか、彼は僕から部屋代をもらわなかった。

 

バリの神様はゆうやと名乗って、一時離れてはいたが、ずっと僕のそばにいてくれたのだ。

 

しかも、飛行機を変更して予定より早くバリから飛び立つということで、ホテルを1日早くチェックアウトすることになるからひとりで使っていい、というのだ。

今まで一人部屋じゃないことで起こらなかった、ムフフなあんなことやこんなことも可能になるではないか。

 

 

バリ滞在の最終局面にきて、風は僕に向き始めた。

 

 

 

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