第38話 頂上を目指して

第38話 頂上を目指して

 

 

休憩のあと、道はさらに急勾配になり一段と険しくなった。

さきほどまでの余裕しゃくしゃくな雰囲気とは打って変わって、誰も口を利かなくなり、みんなのハアハアという息が響き渡る。

時折、列の最後尾で遅れているリッキーを、ガイドのおっちゃんが「がんばれ」と励ます声が聞こえるのだった。

 

 

 

無我夢中で先頭のおっちゃんのあとを着いていく。しばらくして、さきほどの地元の人たちの団体に再び遭遇した。

今は休憩中なのか、腰を下ろしている人や木にもたれている人がいる。人二人分ほどしかない道で、オレたちは彼らを避けながら進んでいく。

 

 

 

途中、夫婦だろうか、うずくまって鳴いている女性と彼女を慰めている男性が団体の中にいた。言葉は理解できないが、「もう登りたくない。帰りたい」と言っているようだった。この険しい道を、頂上まで登ったあと下山しなければいけない。普段サッカーをしているオレですらハードに感じるのだから、無理もない。心の中でがんばれと言って、先へと進んだ。

 

 

 

森林エリアを抜けると、その先はゴツゴツした岩場だった。

ここで気づいたのだが、ランニングシューズでは靴底が柔らかすぎて、足が痛い。これはもはや、ハイキングなどではなく本格的な登山で、登山靴は必須だった。

 

 

 

オレたちが歩いている1、2メートルすぐ横を見ると、急斜面の崖になっていて、もしそこへ落ちようものなら、死ぬだけでなく遺体すら回収されないだろう。ライトで照らしても底が全く見えない。

足を滑らせる場面が脳裏に浮かんで急に身震いした。より一層注意して、一歩一歩進んでいった。

 

 

 

そんな中、突如、ゆうやのヘッドライトの電池が切れてしまった。ブツブツ文句を言いながらも、用意周到なゆうやはカバンの中から、何事もなかったかのように懐中電灯を取り出した。しかも、先ほどのヘッドライトよりもさらに明るい。オレはゆうやのすぐ後ろを歩いていたので、その光はオレに安心感をもたらしたのであった。

神様。仏様。ゆうや様。笑

 

 

 

岩場をしばらく進んでから二度目の休憩に入った。

寒さのせいもあるだろうが、みんなの表情は疲労で死人のように青ざめていた。休憩だからといってじっとしていると、体が冷えて耐えられないほど寒い。かといって、動いても無駄に体力を消耗してしまう。

結局、じっとしていられなくて、あたりを行ったり来たりした。

 

 

 

そのうちに、別の団体も来て休憩し始めた。ゆうやはその中に、日本人女性と外国人男性のカップルをみつけて一緒に会話していたので、オレもその輪に入った。

ふたりは以前に、富士山を登頂したことがあるらしく、富士山と比較してもアグン山は驚くほど難易度が高いようだ。

そんな山が人生初の登山になるとは、なんと恐ろしい。もし生きて帰れたら、この次は事前にしっかりと下調べをしようと心に誓った。

 

 

 

休憩が終わり、がんばりましょうとお互いに励まし合ってカップルとは別れた。

今まで大股でバランスを取りながら登っていたのが、その先は、ロッククライミングのように、手で岩を掴んでから足を置いてよじ登るという具合に、桁違いの過酷さとなった。疲労は限界に達して手に力が入らない中、足を滑らせると崖に転落死という死と隣り合わせの状況で、驚くほどの集中力を発揮した。

 

 

 

空からはだんだんと夜明けの気配が漂ってきて、うっすらと明るくなり始めている。このままのスピードでは、山の頂上で日の出を拝めない。ガイドのおっちゃんの指示で、限界の体に鞭打って少しスピードを上げた。

 

 

 

「がんばれ、ボス! ハハハハハハハ!!!」

と奇妙な笑い声とともにリッキーを励ますものだから、オレたちは一斉に笑いだした。マルセロがそれに応えて、ハハハハハハハ!!! と返すと、さらにどっと全員が笑いだした。

 

 

 

思いがけない笑いが活力となり、みんなに活気が戻って、一致団結して頂上を目指した。

頂上までもう少し。