第62話 ロードトリップ
次の冒険の地ウルワツへの出発は、午後、マルセロが用事から帰ってくるまで待たなければならなかった。
それまではホテルのプールで泳いだり出かけたりと、それぞれが自由に過ごした。
午後3時を過ぎた頃、ようやくマルセロが戻ってきて、やっとのことでウルワツへ出発することになった。
今回は初となる、みんなでスクーターでの長距離の移動。僕は、午前中から興奮を抑えるので必死だった。
僕にとっての『旅』のイメージは人との出会いだが、僕にとっての『冒険』とは、車やバイクを運転して、知らない土地を自ら開拓していくことかもしれない。
街中でも田舎でも、車やバイクを運転しながら眺める景色が僕は好きだ。僕の冒険とはロードトリップなのだ。そんな大興奮の冒険がいよいよ始まる。
と、期待して出発したのだが、通りはあいにくの大渋滞であった。日本では原付しか乗れない僕は、バリで125CCのスクーターの乗り方を覚えてだんだん慣れてきたのだが、それでも車と車のわずかな隙間をすり抜けるのは、まだまだハードルが高い。
渋滞などない道路をビュンビュンかっ飛ばしていく気でいた僕は唖然とした。
今はどうかわかりせんが、僕がバリを旅した当時(2016年)は、パスポートさえ見せてレンタル料を払えばスクーターが借りられました。つまり、日本でバイクの免許を持っていなくても借りられます。良い子は、絶対に僕の真似をしないでください。
僕はハンパないセンスを持っているのと、ハンパない教官(クレイジーブラジル人たち)がいたことによって死なずに済みました。
さらに運の悪いことに、「バーゲンセール」の看板を見つけたブラジル人たちが服屋さんに入ってしまった。
僕もみんなと一緒に店内を見たが、旅で荷物を増やしたくない、そもそも、ほとんど物欲のない僕はすぐに飽きてしまって、ゆうやと一緒に出口で待った。
出発から1時間経過したが、未だに市街地を抜けられていない。僕の冒険のイメージが・・・こんなはずではなかったのだが・・・。
ようやくロードトリップに復帰する頃には、いよいよ渋滞が本格的になり、さらに交通量は増えていた。バイクの人たちが考えることはみな同じで、車の渋滞の脇には、すり抜けしようとするバイクの渋滞ができあがっていた。ただでさえ初心者の僕には、スクーターを車にぶつけないように集中力が必要なのに、いつも以上の集中力が要求された。さらに、追い打ちをかけるように暗くなる前に目的地にたどり着けるかという不安が襲ってきた。
ロードトリップとは、もっと楽しくてワクワクするものではないのか。
僕は不満を持ちながらも、みんなに離されないように必死についていった。後ろを気にせず、どんどん進んでいく彼らについていくのは容易ではない。かろうじてゆうやが僕のことを気遣い、先頭集団から離れすぎないように距離を保ちながらも、僕を先導してくれた。
いくつもカーブが続く道に差し掛かると、車はまだまだ多いがバイクは少なくなっていた。僕はここぞとばかりに、リッキーのコーナリングの仕方を真似して車体を傾けた。すると、思った以上にスムーズにコーナリングできることがわかった。
バリの道路は日本のようにすべてがきれいに舗装されているわけではないので、道路の凹凸にも注意しなければならない。
凹凸の上を通過しようものなら、コントロールを失って大事故になりかねない。
極限の集中力を保ちながらも、自分のライディングスキルの向上が実感できて楽しくなり、自然と僕は笑顔になっていた。
連続コーナーを抜けて道路は長い直線になり、スピードが増していくと、強烈な風が僕の体にぶつかってくる。視界には、畑や木々など自然の景色が飛び込んできて、一瞬で過ぎ去っていく。僕は夢中でスクーターを走らせた。これこそ、僕にとっての冒険だ。
途中で休憩したりしながら、僕たちはどうにか日没前にウルワツにたどり着いた。
ウルワツの話を語る前に、スクーターを片手で運転しながらも器用にスマホで写真が撮れるリッキーによって残された僕たちの記録をここに記す。
コイツら、最高!!
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