第63話 寝ると白髪に染まるベッド

第63話 寝ると白髪に染まるベッド

 

 

僕たちは、どうにか日没前にウルワツに着いたのだが、前もって予約していなかったため、今夜の宿を探さなければならなかった。

だが、意外と簡単に宿が見つかり、そのままそこに泊まることにした。まずは荷物を置くため、それぞれの部屋に入った。

 

 

 

ここまできたら言わなくてもわかると思うが、部屋の割り振りはいつも通り、僕はゆうやとリッキーと一緒である。だが、今回はゆうやが僕にベッドを譲ってくれた。いくら能天気な僕でも、毎回マットレスで寝ていればストレスが溜まる。それを察してくれるとは、さすが日本人である。ゆうやはいろいろと細かい性格だけあって、僕のことも気遣ってくれたのか。

ここまでの旅で雑に扱われてきた僕は、ゆうやの優しさが嬉しくて、今にも泣き出しそうになったがギリギリのところでこらえた。

 

 

 

みんなで出かけるまで少し時間があったので、僕がベッドの感触を確かめるために寝転がろうとした瞬間、僕はベッドのフレームの白い頭側の部分がところどころ茶色いことに気づいた。僕は最初、白の塗装が剥げかかっているのかと思った。

しかし、フレームを間近で見てはっきりしたのだった。

 

 

 

 

フレーム全体がカビだらけであった。フレームの茶色の部分がむしろ原色である。周りにはクモの巣もちらほら。

知らずにこのベッドで寝ていたら、玉手箱を開けた浦島太郎のごとく、僕の頭は白髪になっていたであろう。カビで。

ここで、日本人である前に、極度の潔癖症のゆうやがベッドを譲ってくれたことに納得した。うん、なるほど、これは無理やわ・・・て、さっきのオレの感動を返せやーーーー。

 

 

 

まあ、よかろうもん。そんなことより、このカビをどうするかが問題である。僕が予想するに、潔癖症のゆうやは除菌ティッシュを持っているであろう。それでベッドを拭き上げれば、問題なく使えるはず。

さっそくゆうやに除菌ティッシュを借りて、それはそれは丁寧にベッドを拭き上げた。

 

 

 

て、ゲストが掃除するってどんなやねーーーん。

 

 

 

僕は、お金を払う客の方が偉いとは思っていない。売る側と買う側の立場は平等だ。しかし、今回の件は日本なら確実にクレームもの。部屋を貸し出す前にチェックするのが当たり前じゃないのか。この部屋はきっと、掃除して次の客が長い間入らず、放置されていたままに違いない。

 

 

 

いや、それとも僕が間違っているのかもしれない。日本の常識は日本の常識であって、国によって常識は違う。むしろ、僕の尊敬するアインシュタインは、「常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクション」という名言を残している。

常識なしで考えてみよう。きっとカビは、バリでは幸福をもたらす象徴のようなものなのかもしれない・・・。

 

 

 

そんなわけねーだろ!!!

 

 

 

カビは体に害しかもたらさないではないか。白髪になるどころでは済まないかもしれない。本物の白髪が生える前に、カビによって病気になり死んでしまうかもしれない。やはり、しっかりと掃除しておくべきだ。

ここまで散々怒鳴り散らしたのだが、怒りをどう表現するか知らない僕は、無表情で、むしろニヤけ顔で黙々とベッドを拭き上げていったのである。

 

 

 

僕が旅行して、宿泊先の自分が寝るベッドを自ら掃除したのは、後にも先にもこの時だけである。貴重な体験をさせてくれた宿のオーナーとゆうやには大変感謝している。

 

 

 

 

 

 

なわけないのである。この文章を書いている今もカビの記憶が鮮明に蘇り、ここ数年治まっていた鼻炎のスイッチが入って、鼻水がナイアガラの滝のように流れているのである。誠にけしからん。

 

 

 

部屋を掃除し終わると(僕だけ)、僕たちは夕暮れ時のビーチへ向かった。

 

 

 

 

 

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