第47話 サウナクラブ

第47話 サウナクラブ

 

 

クラブの入り口でオレたちを引き止めた黒人マッチョマンのセキュリティーの2人は、無言でオレたちが持っているビール瓶を指さした。

「なんだ二人とも。このビールが飲みたかったのかあ。お安いご用だ」とリッキーが笑顔で張り詰めた空気を和ませようとした。

「・・・違う。飲食物の持ち込みは禁止だ。捨てろ」マッチョマンのひとりが近くにあるゴミ箱を指さしながら言い放った。

「なーに言ってんだ。このやろう(エディ・マーフィーの吹替版風)。もったいねーじゃねえか。ちょっと待ってろ」

 

 

 

 

リッキーは、オレを入り口の脇の方へ引っ張った。

「せっかくの貴重なビールを無駄にしてなるものか。ひっく」

すでに酔っている彼は、砂漠にいる時の残り少ない貴重な水を大事にするんだ、のニュアンスで真面目に話した。

 

 

 

結果、オレたちはまだ瓶の半分以上残っていたビールを、その場で一気に飲み干した。オレは貴重な水(ビール)を吐き出しそうになった。

ビールを飲み干すと、空の瓶を持ってオレたちは堂々と胸を張ってマッチョマンたちの元に戻ると、ドヤ顔で空になった瓶を見せつけた。

すると、マッチョマンたちは無表情で空の瓶を取り上げて、さっさと行けと言わんばかりにオレたちのお尻を叩いて中へ押しやった。

 

 

 

急にお尻を触られたもんだから、思わず声出しちゃいましたよね。オレ。

アーーーォォォ(マイケル・ジャクソン風)

マッチョマンふたりがビクッと反応したので、結果的にオレたちへの仕打ちに対する小さなリベンジが成功したことを悟った。

 

 

やっとのことで入り口を突破すると、目の前にはクラブというよりはたくさんの木々で緑いっぱいに彩られた屋外レストランが広がっていた。オレは一瞬、ジャングルに足を踏み入れたような錯覚に陥ってしまった。リッキーも圧倒されているようだ。

周りを見渡してみるとどこも人だらけで、ジャングルの中に先住民が集まっているようなおかしな感じがする。

リサ、ユナよ、話が違うではないか。次会ったらお仕置きだ。

 

 

 

ジャングルレストランの席は全部埋まっていて、それぞれが飲み食いして楽しんでいる。オレたちの席はない。

仕方なくオレとリッキーは、奥にあるカウンターでビールを飲みながら様子を伺った。

あたりを見回すと、さらに奥には屋内への扉があるのを発見した。その扉が開くと中から出てくる人と一緒に、ガンガンに流れる曲も外へ出てきた。

オレとリッキーは顔を見合わせると、ニヤリとした。あそこに違いない。

 

 

 

扉を開けて中に入ると、ガンガンの流れる曲とともにモワッという熱気も溢れ出てきた。

中はあまり広くはないがダンスフロアになっていて、踊っている人たちでギュウギュウ詰めになっている。さらに奥にはカウンターもあってバーテンダーがカクテルを作っている。

オレとリッキーはどうにか自分のスペースを確保して、流れに身を任せて踊り始めた。

 

 

5分後・・・

 

 

 

あまりの暑さにオレとリッキーはダンスフロアから脱出した。

クーラーがついてないのか、それとも人が多すぎるのか、ダンスフロアはサウナかと思うくらい暑い。何なら陽炎も見えそうである。それに加えて、いろんな人の体臭が混ざっていて独特な匂いが漂っている。

おしゃれでおいしいカクテルを味わう前に、多国籍観光客たちの体臭カクテルを味わってしまった。

 

 

 

体臭カクテルから逃れて新鮮な空気を吸えたのは良いものの、涼めそうにはない。外も熱帯夜で全然涼しくない。

冷たい空気がないのなら、冷たいビールを体に流し込んで涼むしかないと思い、オレたちは再び中に入りカウンターへ向かった。

 

 

 

キンキンに冷たいビールを期待してカウンターで頼むと、全く冷たさが感じられないビールを渡され、オレは自分の手の感覚が麻痺してるのかと一瞬思ってしまった。仕方なくチビチビとビールを飲み始めた。ハンパないコミュ力のリッキーが隣にいた男と話し始めたので、オレは気まずくなり、徐々にフェードアウトして近くの壁にもたれた。

オレは、クラブに行ったときに踊るよりもよくやる「人間観察」を始めて、しばらくして、ひとりでダンスフロアにいき、オレ、いったい何してるんだろう、という自己嫌悪感を無視しながら踊り続けた。

 

 

 

しばらく踊ると、灼熱地獄とアグン山登頂の疲れですぐに体力が底をついた。

オレは近くのソファに腰を下ろすと、再び人間観察をし始めた。ちょうどその時に、カウンターで話し終えたリッキーがオレの隣に座った。リッキーもクタクタのようだ。

 

 

 

あまりの暑さに2人は黙り込んでいる。サウナの中で男2人が並んで座っているような気分だ。サウナに行ったことはないが、こんな気分に違いない。

黙っているオレたちの横にボブ・マーリーのように長髪のドレッドヘアの男が座ってきた。彼の名はジャックといい、インドネシアの首都ジャカルタから友達数人でバリ島に観光に来ているのだが、グループ行動に疲れたようでひとりでこのクラブに来たらしい。

 

 

 

放っておくと自分から話し始めたので、暑苦しくてうっとうしかったが話を聞いてやることにした。

オレが日本人だということを知ると、ジャックはジャカルタでの日本人女性観光客とのムフフな話を始めた。

ジャックはジャカルタで時々道を聞かれたりするので、その都度、親切に案内する。その時にその女性を食事に誘ったりするのだという。そして、女性と仲が深まり・・・

 

アーーーォォォ(マイケル・ジャクソン風)

 

 

ということになるらしい。観光ということで女性が開放的になっている時に親切にするとアーーーォォォの可能性が高まるらしい。

オレが思うにそれは間違っている。正しくは、

 

開放的 ✕ 親切 ✕ ボブ・マーリー = アーーーォォォ

 

 

である。ボブ・マーリーを忘れてはいけない。この場合、ボブ・マーリーが結果を左右する大半を占めるであろう。

 

 

 

気がつけばオレとリッキーは1時間以上、ボブ、いやジャックの自慢話を聞かされていた。その時、すでに閉店時間が近づき、周りの人たちはほとんどいなくなっていた。

 

 

 

 

こうして、サウナクラブでの夜は幕を閉じた。自慢話しか聞いていない。

 

 

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