第74話 オレについて来い
15分ほど待って雨が止むと、待ってましたとばかりに僕たちは宿へ向けて出発した。
宿につくと、真剣な表情のアレックスが話したいことがあると全員を集めた。
なんだなんだ、まさか、ビビと結婚します(長い間付き合っているけど、まだ結婚はしてないらしい)とか言うんじゃないだろうな。祝福のリアクションを用意しておかねば、と僕は身構えた。
しかし、僕の予想は外れた。
アレックスとビビは、あと数日間ウルワツに残って、二人だけでゆっくり過ごしたいらしい。
うん、わかる、その気持ち。このグループは常に騒がしいから、特にマルセロとリッキーね、心休まる暇もない。
二人の意見を尊重して、僕とゆうやとリッキーの3人でサヌールへ戻ることにした。
リッキーはちょっと動揺してたようだけど、カップルならこれが普通だと思うよ、と伝わったかわからないが、僕はリッキーにテレパシーを送っておいた。
年明けに二人と再会することを誓って、僕たちはサヌールへ向けて出発することにした。
僕のiPhoneのグーグルマップに目的地をセットして、走行中も簡単に確認できるように、iPhoneをスクーターのハンドルの下にある小物入れに、画面を上に向けて入れた。
準備が整い、道順を知っている僕を先頭にして出発した。
しばらくは交通量も少なく、順調に進んでいったのだが、市街地に入るにつれてだんだんと交通量も増えていった。
僕がまだ慣れていないすり抜けをしないといけない。と、ここでリッキーが僕を追い越していく。
ゆうやはしっかりと僕の後ろをついてきてくれていたが、リッキーが僕を追い越して、なおかつ、全く後ろを気にかけない。
そりゃあ、はぐれるわな。そう、リッキーとはぐれたのである。
チームプレーもへったくれもない。典型的な日本人であり、(たぶん)規律を重んじる僕とゆうやは、これにはさすがにキレた。
しばらく走ってリッキーが路肩に止まってないかと探してみたが、一向に見つからない。
これは完璧に自業自得だと思い、僕たちはグーグルマップを頼りに再び走り出した。大通りに出たから経路案内標識を見ながら帰ってこれるだろう。
僕とゆうやはリッキー無しで走り続けた。途中で気がついたのだが、リッキーがいないほうが自分たちのペースを乱されることがないのでストレスなく進める。悪口を言うわけではないが、さすがリッキーの影響力と言わざるを得ないだろう。
ところが、ストレスなしの状態は長くは続かなかった。
小道から大通りへ合流するのが何度もあったのだが、グーグルマップのマップの表示では、合流するポイントが分かりづらくて何度もUターンするはめになった。
おいこら、グーグル。俺たちをもて遊ぶな。早くサヌールにたどり着かせろ。
グーグルマップは僕の殺意を察知したのか、わりと交通量も少ないわかりやすい直線道路に差し掛かった。
その時だ。ゴトン。
一瞬マップを見るために視線を落とした瞬間、気づかずに段差を乗り越えてしまった。ちょっとした段差で僕はなんともないのだが、小物入れから飛び出したiPhoneが宙に浮き、後方へと落下していった。
それを見たゆうやが爆笑している。それに対するリアクションをしている場合ではない。早く回収しないと、気づかずに通った車に引かれてしまう。落ちてるiPhoneに気づいた人が、自分の運転スキルを試すために故意に引く可能性だってあり得る。
それだけは避けたい。
マレーシアでトイレに落ちて水没しても復活したiPhoneなので、絶対に見捨ててはならない。それほど愛着のあるiPhone、というより、機種代高いし、iPhoneをなくしたらバリだけではなく、日本に戻ってからも死活問題になりかねないので、普通に回収しなくてはならない。
僕はすぐ先でUターンして、その先でまたUターンしてiPhoneを救出に向かった。
幸い、交通量がほとんどなかったので、iPhoneが引かれることなく無事に救出できた。アスファルトに無残に横たわるiPhoneを拾い上げると、私は無事よ、という意味だろうか、iPhoneは言葉を発してくれた。
「この先100メートルを左折です」
黙れグーグル。とは思ったが、シリコンゲースが少し傷ついただけで、画面が割れることなく無事が確認できたから良しとしよう。
その後、グーグルの案内を煩わしく思いながらも、僕たちはどうにか無事にサヌールに到着した。
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