第30話 落とし物

第30話 落とし物

 

 

マレーシア最終日の朝がやってきた。

マレーシアでのミッションは完了したので、今夜の飛行機まではたっぷりと時間がある。さて、何をしようか。

先にチェックアウトして、それから今日一日何をするのかゆうやと一緒に考える。

 

 

 

ロビーのパソコンで観光情報を調べてみる。クアラルンプールでの観光スポットベスト10というページが出てきて、ゆうやと相談した結果、ベスト10の中から『バトゥ洞窟』という巨大な大仏と洞窟が有名な場所に行くことにした。

人数は多いほうがおもしろそうなので、となりのパソコンを使っている女の子二人組に声をかけてみた。

 

 

 

「やあ、元気? はじめまして。オレの名前はゆうま」

ふたりがスペイン出身であることを知ってオレはなんだかとてもうれしくなった。なんたって、大好きなサッカーチームのFCバルセロナがある国である。残念ながらふたりはバルセロナではなく、ガリシア地方の出身であるが。

 

 

 

しばらく、スペインのことなどいろいろ話したあと、オレとゆうやと一緒にバトゥ洞窟に観光に行かないか誘ってみた。

答えは・・・NO。泣

すでに本日の予定が決まっているらしく、丁重に断られてしまった。

 

 

 

それでも一応フェイスブックで連絡先を交換しておいて、オレがスペイン旅行に行く際にはふたりを訪ねることを約束した。ふたりのことは諦めて、どうやって底まで行くかなど、詳細なプランをゆうやと一緒に練っていく。

そんなときに急に便意がオレを襲ってきた。昨夜お酒を飲みすぎたせいでお腹を壊したのだろう。

 

 

 

急いでトイレへと駆け込んでズボンを下ろす。その瞬間に何か音がしたのであった。

ぽちゃん。

パーカーのポケットにあるはずの重みが感じられない。すぐに何が起きたのか悟った。オレのiPhoneが便器に落下したのだ。

 

 

 

無意識にすぐに便器に手を突っ込んでiPhone拾い上げて、トイレットペーパーで吹き上げる。さきほどまでの便意を忘れてズボンを上げた。気がついたときには、ロビーにダッシュして叫んでいた。

「オーマイガー!!! iPhoneがトイレに落ちてしまった!!!」

びっくりした顔でマイケルとスペイン人の女の子ふたり、ゆうやが一斉にオレを見る。

 

 

 

ちょっと引き気味のゆうやが冷静に指摘する。

「すぐに電源を切っておいたほうがいいよ」

まだiPhoneの画面は写っていて生きているようだが、ゆうやの言うとおりにすぐに電源を切った。深呼吸をして落ち着くと、とりあえずトイレに戻って用を足してきた。

 

 

 

iPhoneを便器に落として気分まで落ちてしまったが、今日一日をそれだけで無駄にするのはもったいないので、すぐに気持ちを切り替えた。起こってしまったことはしょうがない。画面は写っていたから大丈夫だろうと楽観視していたのである。

フロントのマイケルに頼んでUberでタクシーを呼んでもらった。

 

 

 

しばらくすると、Uberの車が到着してオレたちはバトゥ洞窟へ向かった。

道中、ドライバーのおしゃべりなアジア系フランス人のコニーとたくさん話した。というよりも、コニーの話を聞いていた。ゆうやにとっては英語のリスニング練習となってよかったかもしれない。

 

 

 

コニーはマレーシア人と結婚して現在マレーシアに住んでいる。コニーが教えてくれた名言がある。

NO MONEY NO HONEY (お金なしでははちみつも買えない)

つまり、お金がなければ遊びや楽しいこともおあずけ。

コニーはこの言葉をモットーに、忙しく働いているようだ。

 

 

コニーの連絡先を聞いて、バトゥ洞窟の観光が終わったあとに連絡して迎えに来てくれることを約束した。駐車場からすでにバトゥ洞窟名物の巨大大仏が見えている。大仏がある洞窟の入口に向かってオレとゆうやは歩き始めた。