第79話 暴れ馬を乗りこなす

第79話 暴れ馬を乗りこなす

 

 

僕とリッキーは大晦日を定番のナイトクラブで過ごすことに大筋合意して、クタのナイトクラブを探すことにした。

 

 

大晦日は静かに過ごしたいとゆうやは部屋に残った。3人グループとなってしまった今、心置きなく休めるベストなタイミングに違いない。

 

 

情報通の僕は、僕の独自の情報網ーーーグーグルというのだが、を使って、クタではSKY GARDEN(スカイガーデン)というナイトクラブが大人気との情報をキャッチしていた。

とりあえず、スカイガーデンをチェックしてみようと思う。

 

 

スカイガーデンとは名前の通り、天にも届きそうなほどの高さの高層ビルにあるクラブなのだろう。期待できそうじゃないか。

 

 

大通りへ出て3分ほど歩くと、ピッチピチな格好をしたビラ配りをしてるお姉さんに遭遇した。

先手必勝の精神でお姉さんがこちらに気づく前に声をかけるリッキー。なるほど、積極性が大事だな。メモメモ。

 

 

お姉さんからもらったビラを見ると「SKY GARDEN」のイベントスケジュールが書かれていた。

なんと、僕たちはすでにスカイガーデンの目の前に来ていたのだ。ホステルから徒歩3分とは近すぎる。

 

 

建物を見ると、想像していた高層ビルよりもはるかに低い。お前には失望させられたぞ、スカイガーデン、と思ったのだがお姉さんによると、夜になると入り口で行列ができてしまうほど大人気とのこと。

 

 

なるほど、スカイガーデンとは、客たちの心情にちなんで名付けられたに違いない。お酒を飲んで酔っ払った男女がワンチャンあって、天にも上るような快感を得たことから連想される「天国の庭」ということだろう。

 

 

大いに期待できるではないか、と思ったのだが、スカイガーデンの向かい側から何やら悲鳴が聞こえてきた。

 

 

悲鳴がする方を見ると、予想外のことに僕は驚いた。

なんと、こんな街中に逆バンジー(人が乗った乗り物をパチンコ玉のように空に打ち上げるやつ)がある。

 

 

逆バンジーを眺めながら僕は思った。こっちのほうの名前を「スカイガーデン」にするべきだろうと。5GXって意味わからんわ。

 

 

さすがにこれはやりたくないなあと思っている僕の横で、リッキーは興味津々に見つめている。

ついには受付で料金まで確認し始めた。2人で乗るなら1人約2800円、3人で乗るなら1人約2400円。

 

 

スカイガーデンの入場料2000円より高いではないか。1回打ち上げられてヒャッホーで終わるくらいなら、スカイガーデンでお酒も飲んでたくさんの人と騒いで気持ち的にヒャッホーとなったほうがいいに決まっている。なんなら、意気投合した金髪姉ちゃんとワンちゃんだってあるかもしれない。

 

 

と考えるのも、僕もリッキーも旅終盤のこの頃になると金欠に陥っていた。リッキーは単に酒と食べ物にお金を費やしすぎてるのだと思うが、僕は違う。断じて違うぞ。

 

 

ノリでマルセロについてきたバリだが、刺激を求めてスクーターで暴走する毎日だが、衝動買いなどで金を使う私ではない。

すべてはバリのATMが悪い。毎回デビットカードを使ってATMで少しずつ現金を下ろしていた僕だが、なぜかこの頃になると使えなくなっていた。

 

 

仕方なくクレジットカードを使ったり、カード対応してない店舗では、みんなの支払いを僕のカードで済ませてみんなからもらった現金を使っていた。

 

 

ということもあって、残りのバリでの娯楽は慎重に選択しなければならない。

リッキーのように感情で動くわけにはいかないし、自分の意見を伝えるのがめんどくさいからと、何に対してもYESというようなYESマンになってはいけない。

 

 

 

 

僕、ユウマ、現在の具体的なレベルは知らないが、金欠のおかげで人としてレベル1アップの瞬間だ。

本当はふしぎなアメ(ポケモンのレベルを1あげる)を入手したいところだが、どうやらバリにはないようなので、読者のみなさまがもし見つけたら、ぜひ連絡お願いしますなのだ。

 

 

僕とリッキーは、今夜はスカイガーデン行くことに決めた。そうと決まれば、まずはリカーショップへ酒を調達に行く。

 

 

スカイガーデンでは入場料を払えば2ドリンクついてくるが飲み放題ではない。ナイトクラブで水のようにたくさん酒を飲んでいては破産してしまう。飲み放題でないナイトクラブへ行く場合は、直前に酒を飲んでほろ酔い状態になっていくのが鉄則だ。

 

 

僕たちはホステルに戻って、僕はスクーターの後ろに座り、リッキーの運転でリカーショップへ向かった。

ひどい渋滞のクタでも変わらずエキサイティングな、いや、荒いリッキーの運転は、僕を逆バンジーの人たちよりも叫びたい気分にさせた。楽しいからではない、もちろん悲鳴である。

 

 

武豊のように華麗に暴れ馬を乗りこなした僕は、振り落とされることなく生きてリカーショップにたどり着けた。よくぞがんばったぞオレ、と自分を褒めてやりたがったが、さらなる試練が襲いかかる。

 

 

購入したウォッカとオレンジジュース、アップルジュースを、リッキーがメットインに入れようとするが入らない。最終的には僕が持たないといけなくなる。

両手でしっかり掴んでスクーターからかろうじて落ちなかったのに、今回は片腕が使えない。

 

 

しかも、ドリンクが入っているビニール袋が薄すぎて敗れないか心配だ。

バリの神様は僕にどれだけ試練を与えれば気が済むというのだ。これもすべて、純粋に今夜のスカイガーデンで楽しむため、あわよくばワンチャンあって天にも上るような最高にハイな気分を味わうため、全身全霊をかけてこの試練を乗り越える所存である。

 

 

僕の完璧な平衡感覚と鍛え上げられたボディバランスが揃って初めて可能となる難易度超ウルトラC級の大技で、かつて誰も見たことがない暴れ馬ハリケーンリッキーを乗りこなした僕がホステルにつく頃には、すっかり体力を消耗しきっていた。宣言通り、全身全霊をかけたから仕方ない。

 

 

決戦の地スカイガーデンへ向かうまでまだ時間があったので、僕は決戦に備えて、パソコンをいじるゆうやの横で仮眠を取った。もちろんベッドは別である。

疲れているときにはいびきをかく僕なので、きっとリッキー化していたと思う。

 

 

静けさを求めるゆうやにまったくもって同情するが、これもすべて私がスカイガーデンで空を飛ぶためなのだ。

こんな僕でも空も飛べるはず。

 

 

 

 

 

 

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