第80話 やんちゃな爆弾テロ

第80話 やんちゃな爆弾テロ

 

 

僕が目を覚ますとリッキーがいなくなっていた。

まだスカイガーデンに行くには早いようだが、僕をおいて先に行ってしまったのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。

 

 

隣でパソコンをいじるゆうやにリッキーの行方を聞いてみると、少し前に酒を持って部屋を出ていったとのこと。

なに、さては僕を差し置いて酒を独り占めする気だな。

暴れ馬のようなスクーターに死に物狂いでしがみついて守った酒を、リッキーなんかに安々と独り占めさせてなるものか。

 

 

僕は急いで部屋を飛び出した。

 

 

リッキーはカフェにもなっているホステルのロビーの道路に面したテラス席にひとり座っていた。

リッキーは僕に気がつくと、「ピザを食べるぞ」と声をかけてきた。よかろう。どうやら酒は無事なようだ。

 

 

僕はウェイターにピザのついでに、酒用の氷とグラスも頼んだ。

ウェイターはすぐに氷とグラスを2つ持ってきてくれた。

 

 

リッキーがウォッカをグラスに注いで、僕がオレンジジュースを注ぐ。

今夜の決戦に向け景気づけに乾杯だ。ふたりとも1杯目を一気に飲み干した。

僕はゆっくり飲みたかったのだが、リッキーの醸し出す、男なら一気飲みっしょ、の空気に飲まれて、飲まされてしまった。

 

 

1杯くらい体の大きなリッキーにとってはなんともないだろうが、小柄な僕にとってはアルコール度数が強すぎる。

僕は決して酒に弱いわけではないが、オレンジ割りといえども、空きっ腹にウォッカはキツイ。ピザが来てから少しずつペースを上げていきたい。

 

 

そんな僕の気持ちなど知らずに、リッキーが飲めよと2杯目を注いでくる。僕は自分のペースを守り、ちびちびと飲むことにした。

その後、僕もリッキーも早くナイトクラブに行きたいからか、あまり話すことはなく、ピザを食べながら黙々と酒を飲み続けた。

 

 

暗くなるにつれ通りに人が増えていく。大晦日ということでみな何かを求めているし、とにかく騒ぎたいのだろう。

 

 

人混みにまぎれて、ホームレスのような小汚い格好をした男が、通行人に声をかけては何かを売ろうとしている。

その男は僕たちの方に近づいてきた。何かおもちゃのようなものを見せ、買わないかと聞いてくる。

 

 

それは爆竹だった。おいおっさん、そんなものをこの男に与えるでない。危険すぎる。と、僕の心の声は届くはずもなく、リッキーが爆竹を一袋購入してしまった。

これは、北朝鮮が核爆弾を保有してしまった状態に等しい。つまり、警戒レベル最上級の10、近隣住民は直ちに避難せよ、と総理大臣が生中継で非常事態宣言をしてもおかしくない状況である。

 

 

リッキーはお金を払って爆竹を受け取ると不気味な笑顔を見せた。

すぐにひとつ取り出して火をつけると通りに投げ込んだ。僕はリッキーのあまりの凶暴さに声が出ない。いや、「あ・・・」とだけこぼした。

 

 

3秒後、ババババババと、まるで旧正月を祝う中国の爆竹のように、激しく鳴り響く。

幸い、爆竹は通行人がいないところに落ちたのだが、リッキーの配慮とは考えづらい。果たして、彼がそこまで他人のことを考えられるかは疑問である。

 

 

まさかの爆竹に遭遇した近くを歩いていた人たちは、一瞬驚いて、避けて通り過ぎていった。

その後も、リッキーは次々と爆竹を投げまくった。そのうち数回は、知らずに爆竹に接近した通行人が腰を抜かすほど驚いていた。

 

 

その人には悪いのだが、本気で驚く人間の表情は本気で可笑しいのである。なるほど、ドッキリ番組は何十年も前から、このことに気づいていたのか。

 

 

隣のテラス席で一部始終を見ていた、地元民らしき若者3人衆のひとりがリッキーに声をかけた。どうやら、彼らも爆竹で遊びたいらしい。

しょうがないな、ちょっとだけだぞ、という表情でリッキーが爆竹を渡す。

 

 

僕は黙って見ていたのだが、これは非常に危険なことである。

 

爆竹で破裂音や人々の驚きに味をしめた彼らは、どんどんエスカレートして、気がついたら爆弾テロにまで発展していくのだろう。これがテロ組織の成り立ちである。

 

きっとテロリストたちは、小さい頃に爆竹で遊んでいたガキンチョだったに違いない。大人になるにつれてさらに刺激を求めて、爆竹から本物の爆弾に発展していったのだろう。

子供の頃に爆竹で遊んだ際に、取り扱いに注意しないといけないことを教わらなかったと思う。

 

だから、本物の爆弾に殺傷能力があることも知らずに、仲間を集めてテロ組織となったのだろう。

大人が理由もなしに破壊活動をしたら怒られることは知っているようで、犯行声明なんか出すのはついでであって、後付の理由である。

 

そう、奴らは、元は爆竹小僧どもなのだ。

 

爆竹の刺激だけで満足して、真っ当な大人に成長したのが中国の人たちだろう。爆竹で遊ぶのも旧正月のときと定められて、しっかり教育されているのがわかる。

 

 

ここまで僕の深い考察を述べてきたのだが、そろそろ、不謹慎という声が聞こえてきそうなので、ここまでにしたい。

 

 

結局、何が言いたいかと言うと、爆竹は楽しいのである。

僕もリッキーに爆竹を分けてもらって、通行人のギリギリ近くまで投げた。そして、知らん顔しながら観察するのである。

 

 

爆竹を通して地元民と仲良くなった。それでいいではないか。

みんなわかってると思うが、一応、普段の僕は、このような非人道的行為など絶対にしないことを伝えておく。すべては、ウォッカが悪い。

空きっ腹に飲んだウォッカが悪い。だから、僕は全然悪くない。

 

 

 

 

 

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