第75話 マルセロとの別れ

第75話 マルセロとの別れ

 

 

サヌールに到着したら、僕たちが行くところはやっぱりインディホテルとなる。

というのも、調子に乗った僕たちは、ウルワツへ出発する前に必要なものだけ持っていくために、残ったものをインディホテルに預けていたからである。

すでに常連化している僕たちだから、荷物を預かってもらうという好待遇を受けた。

 

 

 

とまでは、いかないまでもホテルのスタッフたちの心遣いによって、二日間もタダで僕たちの大量の荷物を預かってもらっていたのである。

 

 

ホテルのおなじみの顔ぶれのスタッフたちが、おかえりなさいと僕たちを迎えてくれた。

あまりに空腹なので、僕とゆうやはすぐさま、これまたおなじみのホテルの目の前にある量り売り大衆食堂に足を運んだ。

 

 

店に入ると、相変わらず香辛料のニオイが充満していて、ニオイだけで辛さが伝わり、汗をかきそうだ。

おばちゃんに一品ずつ食べたいものを皿によそってもらい、最後に重さを量ってもらってその分の料金を支払った。

 

 

 

ゆうやと一緒に窓際、といっても手すりがあるだけで窓はないのだが、席につくと、しゃべる間もなくさっそく飯にありついた。

が、すぐに辛さで尋常ではない量の汗が吹き出してきた。このために、少しは風が当たって涼しいであろう窓際に座ったのである。

 

 

おばちゃん、辛くないものを入れてくれよな、といったはずなのに激辛ではないか。NO SPYCY、と簡単な英語で伝えたはずなのに、それに対して、OK OK、と言ったはずなのに激辛ではないか。

 

 

という、この食堂に来る度に起こるおなじみの摩訶不思議現象に今回も苦しめられるのだった。

しかし、これがまた旨いのである。辛いけど、辛さ以外には文句のつけどころがないほど、うまいのである。

パスタとかピザとか西洋料理にはない、バリの家庭の味といった感じがして病みつきになってしまっている。

 

 

これぞ僕が求めていたバリの味なのかもしれない。でも、あのバビグリン(豚の丸焼き)はうまかったなあ、また食べたいなあ、豚さんありがとうね、などと、のどを掻っ切られた豚の苦しそうな表情が浮かんできたところであった。

 

 

 

目の前の駐輪場にひとりの大柄な男がスクーターを停めた。そして、僕たちを見つけると、勢いよくこちらに向かってきた。

 

 

「ユウマ、ゆうや、お前ら、よくもオレを置き去りにしたな」

 

 

どうにか自力でサヌールまで帰ってこれたリッキーであった。

 

 

僕は反射的に謝った。

「ごめん、ごめん。リッキーを見失ったあと、しばらく探し回ったけど見つからなかったから、リッキーの土地勘ならひとりでも帰れると思って、そのまま出発したんだよ」

 

「そうかそうか、やっぱりオレの土地勘がすごいことを知っていたんだな。わかればよろしい」

無駄な言い争いを避けるためにリッキーを持ち上げておいたのだが、本人もまんざらでもないようで、どうやら怒りは収まったようだ。

 

 

よくよく考えたら、グーグルマップを持った僕が先導しているのに、自分勝手に追い越した自己チューなリッキーが悪いではないか。

まあいい、そんなことよりも、今はこのバリの家庭の味を味わいたいのだ。

 

 

僕たちと同じく、リッキーも皿いっぱいにごはんをよそってもらい、席についた。その量と言ったら山盛りだった僕とゆうやの皿のさらに上をいく。

 

 

僕たちがインディホテルへ戻ると、タイサの送迎を終えたマルセロが帰ってきた。

この3週間一緒に旅をしてきたマルセロも、これから始まるダビングの仕事で、もうすぐ空港へ行きインドネシアの別の島へ行かなければならない。

 

 

マルセロが出発するまでの束の間、僕たちはホテルのプールサイドで最後にビンタンビール、ではなく、ハイネケンで乾杯した。

 

 

 

 

 

マルセロが出発する時間になると、タクシーがホテルの前につけた。

ついに友との別れが来てしまった。

 

 

今思えば、マルセロとは沖縄で7ヶ月間一緒に住んで、一緒にバーをはしごしたり、ホームパーティーを開いて飲んだり、酒を浴びるように飲んだりと、お酒に関する思い出だらけである。これでは僕がただの飲んだくれのように思えるかもしれないが、そうではない。

 

それほどマルセロとは、アルコールを通して強い友情で結ばれていたと思う。

 

 

今回のバリの旅も、マルセロの強引な勧誘がなければ、僕は来ていなかっただろう。

彼を通じて知り合った仲間たち。これまでの3週間の間だけでも、経験したくないことも含めてたくさんのことが経験ができた。本当に感謝しかない。

 

 

面と向かって伝えるのは恥ずかしいが、僕は彼に「ありがとう。またね」とだけ言って抱擁を交わした。

ゆうやとリッキーも、それぞれマルセロと別れの挨拶をした。

 

 

1年後にブラジルでの再会を誓い、僕たちは別れた。

タクシーにマルセロを見送りながら、僕はこれからの彼の成功を静かに願った。

 

 

 

キャプテンマルセロは行ってしまったが、僕たちの旅は、まだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

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