第61話 走れ、メロスどもめ

第61話 走れ、メロスどもめ

 

 

翌朝、腹痛から回復したリッキー(どうやらお尻は無事だったようである)とゆうやと共に、まだ途中だったミッション「移動用のスクーターを確保せよ」(あと3台必要)に取り掛かることにした。

まずは、僕の提案でバリ島についた初日に宿泊した宿「ルマ・サンバ」に行くことにした。僕たちが宿泊した際にスクーターを貸し出していたので、もし余っていたら借りられるかもしれない。

 

 

 

僕よりもバイクの運転に慣れているゆうや(日本でバイクの免許を持っている)に任せて、僕は後ろに乗った。そして、僕たちはリッキーの先導でルマ・サンバに向かった。

10分ほどで着くと、宿のおばちゃんが出てきて声をかけてくれた。僕たちがルマ・サンバからチェックアウトして2週間ほど経っていたが、おばちゃんは僕たちのことを覚えてくれていた。(どの宿泊客よりも騒がしかったからに違いない)

 

 

 

おばちゃんにスクーターを借りられないか尋ねてみたが、ダメだった。やはり、年末は繁忙期らしく、宿もいっぱいですべてのスクーターを貸し出しているようだ。おばちゃんはかわりに、宿の近くにあるレンタルスクーターがあるレストランの場所を教えてくれた。ありがたい。

さすが、リッキーのコミュ力である。グループの中で大人しいキャラに位置づけられている僕とゆうやでは、ここまでの成果は得られなかったであろう。おばちゃんが覚えててくれたのは、僕たち日本人ではなく、リッキーのことに違いない。

 

 

 

3人がお礼を言って次の場所へ向かおうとすると、そこへ現れたのが、少し日本語をしゃべれる宿の掃除のおっちゃんである。

僕たちが宿泊しているときに、日本が好きということでおっちゃんと仲良くなったのである。

「NAKATA!(元サッカー選手、中田英寿) コンニチハ! サヨナラ!」

去り際におじちゃんが、僕とゆうやに気づいて声をかけてくれた。リッキー人気に少し嫉妬していた僕も、承認欲求が満たされて嬉しくなった。

 

 

 

宿のおばちゃんが案内してくれたレストランに着くと、レストランの横に「FOR RENT」のボードが下げれられたスクーターを1台発見した。(僕が何度もレンタル彼氏をやると思ったら大間違いである)

レストランにはまったく客がいないので、レストランが営業中なのかわからなかったが、僕たちがスクーターを見ていると、スタッフらしき若い女の子がひとり出てきた。

「このスクーターを借りたいんですけど、いくらですか?」僕は彼女にたずねてみた。

 

 

 

 

彼女は「ちょっと待ってね」と言って、レストランに戻っていった。しばらくすると、奥の方からオーナーらしきおばちゃんが出てきて対応した。

料金は、なんと1日600円ほど。しかもパスポートを見せてレンタル料を払うと書類手続きなどもなく、すぐにスクーターの鍵を渡してくれた。いやいやいや。そんな簡単でいいのかい、というほどの適当さである。

それとも、日本人の信用度の高さなのか。

 

 

 

難なくスクーターを1台ゲットできたのは良かったのだが、まだあと2台必要だ。おばちゃんにあと2台借りられないか聞いてみたが、他にレンタル用スクーターは無いらしい。しかし、おばちゃんは隣の店を指指して「あっちで借りられるはずだから、聞いてみなさい」と言い残し、店内に戻っていった。

 

 

 

僕たちはすぐに隣の店に移動した。お店の中には、見るからに新しそうなスクーターが4,5台、ほかにも何台もの自転車が並べれられていた。こんな近くにあるではないか。

店主らしき老夫婦が出てくると、さっそくリッキーが「スクーターを借りたいんだけど、いくら?」と話しかけた。

レンタル料はさきほどのレストランのものよりは高いのだが、高年式で走行距離も少ない。僕はむしろ、こっちの方に乗りたかったのだが、バリにあと2週間ほど滞在する予定なので、できるだけお金を節約しないといけないと自制した。

 

 

 

スクーターは借りられることになったのだが、スクーターを運転する人がいない。あと2人運転する人が必要なので、リッキーとゆうやがマルセロとアレックスを迎えに行くことになった。

そして、なぜか僕は置き去りにされて、ふたりを待つことになった。僕にはこんな役回りがしか回ってこない。なんでだ!

 

 

 

ふたりが去っていったあと、僕と老夫婦で待つことになったのだが、世間話が苦手な僕は場を持たすことができない。すぐに話のネタが尽きると、気まずい空気が流れるのであった。

この店のスクーターを借りるわけではない僕が、なぜ待たなければいけないのだ。僕は友を信じてひたすら待った。

彼らが来ることは確実なのだが、メロスを待っていたセリヌンティウスの気持ちがわかった気がする。そんなことを考えていないとやってられないのだ。

 

 

 

メロスどもよ、走れ。力の限り走るのだ。さもなくば、一見優しそうに見えるこの老夫婦の化けの皮が剥がれ、悪魔のような本性が表れ、我が命が絶たれてしまう。それでも良いのか。

 

 

 

待つこと30分。ようやくリッキーとゆうやがマルセロとアレックスをスクーターの後ろに乗せて戻ってきた。やっと来たかメロスどもめ。

何度も心が折れそうになったセリヌンティウス(僕)は、4人のメロスの到着を心から喜んだ・・・。

妄想はこのへんにしておこう。

 

 

 

 

真新しいスクーターを見たマルセロとアレックスは、新しいおもちゃを買い与えられた子供にように大いに喜んだ。

ここでミッション「移動用のスクーターを確保せよ」は完了して、午後から始まる次の冒険へのチャンスを手に入れたのである。

 

 

 

 

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