第93話 大人の本気の川遊び

第93話 大人の本気の川遊び

 

 

ディーバがグループに及ぼしていた悪影響から、僕たちはついに開放された。

彼女が何かやらかす度に申し訳なさそうにしていたケビンは、表情が活き活きとしている。

 

昼食のあと、さっそく一同はウブド観光を開始した。

 

まずはじめは滝である。

蒸し暑いバリの気候なので、水遊びができるとなると大人でも大はしゃぎである。

 

しかし、滝までの道のりは長かった。遠目から見る分には素晴らしい景色なのだが、そこまで歩くとなると大変だ。

 

 

滝までたどり着くには、何段もつづく傾斜のきつい階段を降りなければならなかった。

水浴びする前の運動としては良いのかもしれない。

 

滝壺まで来ると、みなその場でTシャツを脱ぎ捨てて水に飛び込んでいったのだが、僕は眺めることにした。

なぜなら水が汚すぎるからである。汚れた水から、僕は映画「アナコンダ」のワンシーンを思い出してしまった。

 

映画の中で、ジャングルの奥地へと進んでいく人々が、ほぼ全身浸かるほど深い沼を進まなければならなかった。その沼の水はひどく濁っていて、沼から上がるとグループの一人の全身にはヒルがびっしりついていた。それはそれはグロテスクで、僕は思わず顔を背けてしまったほどだ。

 

何人もの人が泳いでる場所なので、もちろんそんなことはないのだろうが、「アナコンダ」の記憶が蘇ったせいで泳ぐ気は失せた。

大人しくしていようと思う。

 

ということで、僕は写真撮影に集中した。

 

 

 

 

 

 

リッキーのお尻に2,3匹のヒルを、という僕の願いは叶わなかった。

それよりも、リッキーの奥にいるカップルの会話が気になる。

女性「私、赤ちゃんできたの」

男性「え、え!? 何? 聞こえない」

そんなことを話しているのだろうか。

 

 

次に僕たちはある寺院に行ったのだが、僕たちは人工物よりも自然に興味があるらしい。敷地内に川をみつけてしまった。

川の奥の方で石けんで体を洗っている全裸の禿げたおっちゃんと目があったが、僕はすぐに目を逸した。

 

僕以外はすぐに服を脱いで川に入ったのだが、おそらく10度くらいだろうか、川の水が予想以上に冷たく僕は躊躇した。

しかし、みながあまりにも気持ちよさそうにするもんだから、ここまできたら入るしかない。

 

 

僕たちはまず修行を始めた。

ディーバによってダメージを受けた僕たちの汚れたメンタルを、特に、無視されたことによって多大なダメージを受けた僕のメンタルを、川の清らかな水がきれいに洗い流してくれる。

 

 

 

 

一番ディーバの悪影響を受けたリッキーは、まだまだ足りないといった具合に洗浄していた。

 

 

このあとリッキーにどのような心の変化が起こるのか楽しみである。

 

どうやら、ここは「洗い流す」に特化した川のようだ。

さらに奥に行くと、洗濯機のように渦を巻いている箇所があったので僕は飛び込んでみた。

 

 

 

 

 

なるほど、洗濯機の中の衣服はこのような気持ちなのか、と洗濯機に突っ込まれた衣服たちの身になってみた。

人間以外にも共感する能力を身につけた僕は、このあとすっかりリフレッシュでき、それは顔にもはっきりと現れた。

自分で言うのも何だが、さわやかな笑顔といい肌のツヤといい、バリの女性たちが僕のことを放っておかないだろう。

 

 

 

次に、僕たちはグーグルマップを頼りにとある寺院に向かった。

しかし、なぜか寺院は取り壊されていて、残骸だけが虚しく残っている。

 

敷地内を歩き回っていると、跡地の背後には田園が広がっているのを見つけた。寺院の脇にある細道から下っていき、田園地帯に入った。しかもスクーターで。

 

 

200メートルくらい進むと行き止まりとなった。

見ての通り、2台のスクーターがギリギリ通れるくらいの道幅なので、引き返す際に僕たちがあたふたしたのは想像に難くないであろう(特にバイク初心者である僕とケビンは)。

 

寺院から次の場所へ移動する際、ケビンが迷子になってしまった。

後ろから着いてきていたはずのケビンがいないのだ。まさか、バリの犯罪組織にさらわれたのか。そんなはずはあるまい。消防士のケビンはなかなかいい体格をしていて、キックボクシングも少しやっていたようだ。肉弾戦なら負けるはずがない、いや犯罪組織は銃を持っていたり、ムエタイマスターの用心棒も雇っているかもしれない、などと悪いイメージが思い浮かんできたが、普通に考えて僕たちとはぐれただけだろう。

 

あいにく通信ができるのは僕のスマホだけで、ほかは誰もSIMカードを購入していない。なんと不便なことか。

これでは携帯電話が普及する前の時代と同じではないか。まるであの時代にタイムスリップしたかのようだ。

 

10分ほど見通しのいい場所でケビンを待ったが戻ってこない。らちが明かないので探しに行くことにした。お互いにスマホで連絡を取れるなら手分けして探すこともできたが、連絡手段のない僕たちはみんなでまとまって探すことしかできない。なんと効率の悪いことか。それでもやるしかない。

 

 

僕たちは走り出した。

 

 

 

幸運なことに1時間ほど探し回ってようやくケビンを発見できた。出現率の低いポケモン、ケビン(ゴーリキーに似ている)を僕たちはついにゲットしたのだ。

 

他にも見て回ったところはあるが、僕があまりにも寺院に興味がなさすぎて写真にも僕の記憶にも残ってない。

 

最後にこの一枚で締めるとしよう。

 

 

解説しておくと、笑ってと言われたので満面の作り笑いでこたえた。なぜスカートのようなものを履いているかというと、決して僕が女装趣味があるのではなく、寺院に入るには男女ともにこのような布を腰に巻かないといけないからである。

そして、一番気になる「ピンと反り立つ小指」であるが、なぜそうなっているのか僕にもわからない。関係があるかはわからないが、僕が缶のミルクティーを飲む時も小指が立つ。

 

 

 

 

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