クレイジーハロウィン最終話 リアルハロウィン

クレイジーハロウィン最終話 リアルハロウィン

 

 

約1時間、電車に揺られて空港にたどり着いた。

特にやることもないので、早めにチェックインを済ませて保安検査場を抜けて待合室に座った。

 

 

 

3日間夜通しで遊んだ韓国をもう離れるかと思うと、なんだか寂しい気持ちになった。だが、沖縄からソウルまでの飛行時間は2時間と、東京に行くより短い時間で来れるかと思うと、またいつでも好きなときに行ける、目と鼻の先の近所のような気がした。

子供の頃の遠足や修学旅行で、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、帰るときが一瞬に感じられたように、今回のフライトも一瞬で沖縄の那覇空港についた。

 

 

 

翌日の夜、韓国から帰って久しぶりに仲間と集まってフットサルをしていた。交代づつでゴールキーパーをすることになっていて、オレの番になり、シュートを止めてやる、と集中していたときのことだった。

 

 

 

目の前に相手のパスが飛んできて、相手チームでプレーしている、巨漢ブラジル人のチアゴが勢いよく走り込んできた。彼とぶつかったらタダでは済みそうもないが、オレは勇気を振り絞って本能的に前に出た。チアゴの方がが先に触りそうだったので、とっさの判断でオレは両腕を広げて、シュートをブロックした。

その瞬間、右手に強い衝撃があり、激痛が体中を駆け巡った。

 

アガガガガガガ(沖縄の方言で痛いの意味)!!

 

あまりの痛みに、辺りを駆け回った。もちろんプレーは即座に中断された。

 

いったい何が起きたんだ!?

 

右手の甲を見ると、なんと、なんと、小指が第一関節から指先にかけて外側に曲がっているではないか!!

焦ったオレは、突き指だと思い、とっさにゆっくりと小指を元に戻そうとするも、さらなる激痛が走った。

手のひら側から小指を見ると、骨が皮膚を突き破って飛び出ており、出血していた。

 

 

 

そんなオレの様子を、仲間たちがぞろぞろと集まって見に来た。

「ユウマ、ゴメン、ダイジョウブ?」

シュートをしたチアゴや、同じくブラジル人のユウリ、オレが手伝うサッカースクールのコーチ陣のひとりのゆうやが心配そうに見ている。

「あちゃー、ゆうまさん、これは救急に行ったほうがいいですね。オレが連れていきますよ」

「オレは大丈夫だから、他のみんなはフットサル続けて。また来週、おつかれさま!!」

そう言って、オレは急いで荷物をまとめてゆうやの車に飛び乗った。オレの車の鍵はユウリにあずけた。ユウリがチアゴとオレの車も一緒に、病院まで駆けつけてくれるみたいだ。

 

 

 

近くの病院につくと、救急に直行して受付で小指を見せながら、

「これ、診てもらいたいです」

と言うと、受付の女性はすぐにうなずいて、腰掛けて待つようにと言った。

 

 

 

待っている間に、指を折るなんて経験はなかなかできるものではないから、記念写真を撮りたいとゆうやにお願いして、折れ曲がった指を強調したポーズを取った写真を何枚か撮ってもらった。そうしているうちに、チアゴとユウリも到着して一緒に待ってくれた。

先程、撮ったふざけた写真をふたりに見せると、大笑いしそうにったところ、病院だからと必死に息を殺した。

 

 

 

「ユウマ、これからはオ○ニーできないから、残念だね」とユウリがニヤケながら右手で輪っかを作り、上下に小刻みに振った。

「ユウリ、甘いな。オレは両利きだよ」ドヤ顔で、ユウリと同じように左手を上下に振った。

この頃には、ずっとオレに謝っていたチアゴも、もう大丈夫だと思ったようで、冗談を言っていた。

「じゃあ、禁欲するために、左手も折ったほうがいいんじゃない?」

「それはいろんな意味で本気で困る!!笑」

病院だというのに、院内で一番活気のあふれる待合室となっていた。

 

 

 

じきに名前が呼ばれると、診察室に入り先生に診てもらって、処置室へと案内された。

小指に局所麻酔を注射して麻酔が効いてくると、先生は丁寧に指をはめ直して、傷口を縫ってくれた。

 

 

 

再び待合室で会計を待っている間に、処置後のオレの元気な写真をゆうやに撮ってもらった。

 

 

みんなにお礼を言って(一応チアゴにも。笑)、ユウリが病院まで運転してくれたオレの車(MT車)を、右手はハンドルに添えるだけにして(右手は添えるだけ。どこかで聞いたことがあるぞ)、左手でシフトチェンジしたり、ハンドル切ったり忙しく運転しながら帰った。

 

 

 

翌日はサッカースクールの練習があったので、いつも通りに練習に行くと、無邪気な生徒たちのうちのひとりが声をかけてきた。

「ユウマコーチ、これどうしたの?」

ん? 何かトゲのある言葉でもないのに痛いぞ。オレの右手は、小指を握っている生徒に持ち上げられていた。

「その指、折れてるから!! お願い、離して!!」

 

 

 

その時のオレの必死の形相はきっと、ソウルのハロウィンで出会ったリアルな特殊メイクのゾンビよりも怖いものだったに違いない。生徒はびっくりして、さっと指を解放してくれた。

「そうなんだ。コーチ、ケガに気をつけないとダメだよ」

と練習に戻っていった。

 

 

 

こうして、人生で初めて参加したソウルでのハロウィンは、個人的にはリアルなハロウィンとなって幕を閉じた。

 

ちなみに、これを機に手でシュートを止めるのが怖くなり、オレがキーパーをすると、簡単にゴールが決まってしまうようになった。