第14話 ち◯こ危機一髪!?
今夜のディナーは、少しばかり遠出してビーチにあるおしゃれなレストランに決まった。
いつも通りにみんなでバイクでレストランへ向かう。
大きなテーブル席を取って、まずは、お決まりのビンタンビールでの乾杯がディナーの開始の合図となった。
空腹が極限に達していたオレは、バリの定番料理ナシゴレン(バリ風チャーハン)をさっさと平らげていしまう。食べ終わるとビンタンビールのアルコールの作用でトイレスイッチがオンになり、急いでトイレに入った。
トイレに入ると、さすがビーチにあるレストランなだけに、トイレまでもが海のにおいが立ち込めている。海を感じながらズボンのチャックを下ろして、
便器からはみ出ないようにしっかりと狙いを定めて小便の体勢に入った。
その時、ゴソゴソと何か物音が自分の目の前からしてきた。
便器の後ろは壁になっていて、ちょうど腰の高さが段差になっている。
そこから現れたのはなんと、手のひらサイズの大きなカニ!!
普段ならばたとえ大きなカニを見ても動じないのだが、今回の自分の置かれた状況を把握して全身の鳥肌が立っている。
小便をしているオレの息子、ち◯こが無防備にカニの大きなハサミのすぐ近くに位置している。
今にもカニが襲ってきて、ち◯こをちょん切ってしまうのではないかという恐怖が頭をよぎって背筋に寒気が走った。
カニを刺激しないように注意しながらも、小便が早く終わるようにさらに力んだ。
この10秒ほどの時間が永遠に感じた瞬間であった。
小便が終わると、急いでチャックを上げてすぐにカニと間合いを取ってオレの息子を危機から救出した。
こんな危険なやつを男性が無防備になる場所で野放しにしていたら、いつかは犠牲者が出てしまう。オレは決断をくだして、危険なカニを捕獲することにした。
辺りを見回すと、捕獲に使えそうなバケツを発見した。
よし、こいつでカニを捕獲しよう!!
恐る恐るバケツを構えてカニを少しずつ壁の端に追い込んでいく。
これ以上逃げるスペースがないところでバケツをそっと被せてついにカニを確保した!!
小さくガッツポーズしたのは束の間、またすぐ近くで物音がした。
すぐに音の方を見ると、同じくらいのサイズのカニがもう一匹姿を現してハサミを構えている。
オレの相棒をよくもやったな!! と、でも言いたげにしている。
なんてことだ・・・こやつら双子か??笑
気を取り直して再び捕獲モードに入った。
今回は、カニは床にいるのでさらに広いスペースで360度どこにでも動ける。
もう一匹のカニが入っているので、バケツを倒す角度に注意しながらカニを少しずつ追い込んで、どうにか2匹目のカニの捕獲も成功した。
これで、このあとから用を足しに入ってくる男たちの息子の無事が約束された。
オレはヒーローになった気分で、2匹のカニが入ったバケツと共に勢いよくトイレを飛び出して力の限り叫んだ。
獲ったどー!!!
ちょうどその時、トイレの近くのレジで会計を済ませていたグループがいたので、自慢げに2匹のカニを見せてやった。そのグループの中に見覚えのある女の子がひとりいる。サヌールのホステルでちょっとだけ話したドイツ人女子大生のアリス。
「アリス、久しぶり! 君のためにカニを捕まえたよ。今夜一緒に食べないかい?なんてね。笑」
アリスにカニを捕まえた経緯を話して写真を取ってもらった。
「またどこかで会おうね!」
お互いに笑顔で再会を誓って別れた。
それからオレは自分の席に戻って、他のみんなにカニを見せて回った。
が、案外みんなの反応が薄い。笑
カニを捕まえた当の本人だけ、勝手にテンションが上ったのだと思い知らされる。
だが、そんなことはどうでもいい。オレはこれからトイレを利用する人たちの危機を救った、歴史に語られぬヒーローなのだから。
しばらく、なんだかよくわからない達成感に浸っていた。
カニは海の方に逃して、席に戻ってビンタンビールをぐびっと飲み干した。
何事もなかったかのように食事に戻って団らんは続く。
みんな食事を終えて、次なるハプニングが待ち受ける、他のビーチで賑わっているバーへと向かうのだった。
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