第6話 何かと騒がしい料理店

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クマのようなリッキーが加わったところで、腹ペコなオレたちは食料を求めて近くを散策することにした。

十分とは言えない明るさの街灯が夜道を照らしている。現在の時刻は夜11時。ほとんどのお店は閉まっていて、辺りは静まり返っている。

 

 

 

夜道を歩いていると、ブラジルにいたときの記憶が蘇った。

ブラジルでは、夜道は危険だから絶対にひとりで歩くなと言われていた。たまにひとりで歩いていたけれども。笑 その時に身に着けた危険察知能力のおかげで、ブラジルでは一度も危険な目には合わなかった。

 

 

 

しかし今回、人生初の東南アジア。どれくらいの危険度なのか想像もつかない。

今回はいろんな国で生き延びてきた大ベテランのマルセロ師匠がいる。

しかも大きな体格のリッキーもいる。彼らがいれば貧弱な日本人のオレとゆうやは安心だ。

一応、オレもブラジルにいた時並みの最大限の警戒はしておこう。

 

 

 

15分ほど歩いていると、何やら、屋外で地元民が賑やかに食事をしている飲食店が目の前に現れた。近づいていくと、ショーケースに何十種類もの料理が分けられている。

店員さんに指示して、食べたい料理を皿に入れてもらってからの量り売りらしい。

それにしても、香辛料がきいて辛そうだけど、食欲をそそるいい匂いがする。

 

 

 

オレとゆうやは辛い食べ物が苦手なので、店員が辛くないと言っていたものを選んだ。

4人ともお腹が空きすぎてありえないくらいの量を頼んだのだが、それでもだいたい300円くらい。安い!!!!

4人とも、盛りに盛ってもらった皿をテーブルに置いて席についた。

いただきまーす!!

 

 

 

チキンをひと口食べてみた。よく煮込まれていて、程よい柔らかさの肉がマイルドなソースとうまく絡み合っていてウマい!!

と思ったのも束の間、のどから胃にかけて焼けるような感覚を覚えた。

一瞬にして全身の血が沸騰して血流が加速した。そして全身の汗腺が全開になった。

 

 

 

辛い!! 汗のスイッチがオンになった。次々と額から汗が流れてくる。

ゆうやも隣で辛さに苦しみ始めた。笑 水で流し込むも効果なし。

店員さん、辛くないんじゃなかったの!? 伝わらなかった?

いや、確かに理解していたはずだ。残る可能性はひとつ。

この国には、全く辛くない食べ物が存在しないのかもしれない。

 

 

 

よし、あきらめてこの辛さに慣れる!! ミルクティー好きの甘党だけどほどほどに辛さに強くなる時が来た。

そう決心した時に、足元でガサゴソと何かが動く音がした。

 

 

 

 

みんな何事かと足元を覗いてみる・・・。

子猫らしきものが、排水口に向かって逃げていく。一瞬、照明があたるところを通った瞬間にそいつの正体が明らかになった。

子猫サイズの超巨大な ネ・ズ・ミ!!

 

 

 

一同、目を疑った。お互いに驚いた表情で顔を見合わせて、今見たものが本物かと確認し合った。

もう一度ネズミの方を見ると、確かに子猫サイズの超巨大ネズミが排水口に逃げていった。

 

 

 

驚きながらも残りのご飯を食べていると、ショーはさらに続いた。

何か黒い物体がみんなの目の前を飛んでった。

ギェェェェェ!!!

ゆうやが悲鳴を上げた。

 

 

 

飛び回っている黒い物体を目で追ってみると、親指3本分くらいの巨大ゴキブリが所狭しとあちらこちらへ飛び回っているではないか。

店にいる客全員が、自分のところに飛んでこないように少し身をかがめて避ける準備をした。

 

 

 

ゴキブリはしばらく飛び回ると、何事もなかったかのようにお店の壁に着地した。

とその時、さっきまで目立たないように壁でへばりついてずっと獲物を待ち続けていたヤモリの見せ場がとうとうやってきた。

 

 

 

それを見ていたオレたちは、心の中で一斉に叫んだ。

そいつ(ゴキさん)を殺っちまえ!!

 

 

 

 

ヤモリはゴキブリに悟られないように、慎重に少しずつ近づいていった。

勝負は一瞬だった。

ヤモリは射程距離に入ると大きく口を開けて一瞬にして巨大ゴキブリを捕らえた。

 

 

 

一同、拍手喝采しそうなくらいの感心した表情になっていた。

これでまた平和な食事の時間が戻ってきた。恐ろしい辛さを除いては。

残りのバリ人にとっては辛くないものばっかりを選んだ料理を楽しんだ。

 

 

 

食欲を満たしたオレたちは帰路についた。これから何回かこの飲食店に通うことになるのだがオレたちは『害虫レストラン」と名付けた。

 

 

 

 

帰り道の途中でタクシーのおっちゃんが絡んでくる。

「タクシー乗らないかい?」

「いらない」 リッキーが応えた。

「じゃあ、特別なマッサージはどう? ハッピーエンディング付きでかわいいこもたくさんいるよ」

「え、詳しく聞かせろよ」

リッキーが食いついた。時間と値段を確認した。

 

 

 

 

「まだここにあと何日かいるから次の機会に」

と『夜の大人の遊び情報』をリッキーは得た。

「ユウマ、このあたりらしいぞ。次行こうな」

「おういいね」

ふたりとも鼻の下を伸ばして笑顔で約束を交わした。

 

 

 

 

宿に着くと、みんな疲れていたので、ドミトリーのそれぞれのスペースに入っていった。

すでにオレたち以外の他の宿泊客は眠っていて、誰かのいびきがドミトリーに響いている。

どんな環境でも眠れるオレは大丈夫だけど、神経質なゆうやにとっては厳しい環境に違いないと、少し気の毒に思えた。1泊1000円だからしょうがない。

 

 

 

バリ島に到着して初っ端から濃い内容の夜で、これから1ヶ月間どんなすごいことが起こるのかと思うとワクワクが止まらない。ゆっくり休んで明日に備えるのだった。

 

 

 

 

マルセロはさらに遅い便でバリ島に着く妹のビアンカを待つべく、それまで起きているのだった。

 

 

 

 

妹のビアンカはマルセロを訪ねて、沖縄に来て2ヶ月間一緒に住んだ。

オレはその時に幾度となく兄妹ゲンカを見ていたので、今回も何かしらハプニングになるだろうと思った。

 

 

 

久しぶりに会うビアンカ。楽しみである。

翌日からおてんばなビアンカを加えて、新たに冒険が始まるのであった。