第11話 ハッピーエンディングはいかが?

第11話 ハッピーエンディングはいかが?

 

 

僕は記憶を辿って歓楽街に来た。

特に目的はないがとりあえず歩き回る。

 

昼過ぎの歓楽街で目立つのは、マッサージ店の呼び込みだ。

あまり人通りがないからか、店はガラガラで暇しているようだ。体のラインがわかるピチピチの制服を来た女性スタッフ全員が店の前で座っておしゃべりしつつ、目の前を人が通ると、即座に反応して獲物に食らいつくハイエナのように客引きをする。

 

何時間も歩いた僕の足はパンパンに張っていた。もう歩けない。ここで一息つきたいところだ。

そんなところにマッサージ店があれば、砂漠でさまよっている時にオアシスを見つけるようなもので、誰でも無意識にオアシスへ向かうだろう。これはいわば、人間の生存本能なのだ。

 

僕は自らハイエナども(女性スタッフたち)の中に飛び込んだ。みな一斉に話しかけてきて、何がなんだかわからない。

他のスタッフより少し年上の店のマネージャーらしき女性が、あたふたしている僕にメニューを見せながら優しく説明し始めた。

好きな子を選んでいいわよ、と言いつつ、「ハッピーエンディング」もあるわよ、と耳打ちしてきた。

 

反射的ににやけてしまったが、今回僕は純粋にマッサージを受けたいので、丁重に断って60分の全身マッサージをお願いした。

黒髪の若い娘が僕を店内の個室まで案内してくれた。個室の中はお化け屋敷のように薄暗くて、中心にはマッサージベッドがあってタオルが敷かれている。

 

女性がTシャツを脱いでベッドにうつ伏せになるように指示してきたので、僕は言われた通りうつ伏せになり目を閉じた。

女性は一度個室を出て、オイルやら何やらを持って戻ってきた。

 

そこから30分以上、全身を丁寧にマッサージしてくれたのだが、女性は途中で急に手を止めた。

そして、彼女は僕の肩を軽く叩き、僕が目を開くと、手で輪っかを作り上下に動かしながら小声で聞いてきた。

 

「お兄さん、ハッピーエンディングはいかが?」

 

いや、だから、いらないってさっき言ったじゃん、と思いつつも僕は丁重にお断りした。

それから通常のマッサージに戻って5分後、彼女は再び僕に「ハッピーエンディング」はどうか、と聞いてきた。

今そんなことは求めていないし、もし承諾しても追加料金がかかってしまうので、僕は今度ははっきりと断った。

 

彼女たちも稼ぐために必死なのは理解しているけれど、最初に断ったじゃないか。僕を、マッサージを受けるとスイッチオンになるような性欲モンスター扱いしやがって、全くもってけしからん。もっとムッツリスケベなやつを誘惑したらうまくいくと思う。いや、断じて言うが僕ではない。

 

とはいえ、マッサージはよかったので、怒りの感情を彼女たちに見せることなく、清々しい気持ちで僕は店を出た。

これでリフレッシュ完了だ。

 

僕は次に、シンガポール行きのバスのチケット買いに行くことにした。

チケットは大きな高級感漂うホテルのロビーで売られていたので、貧乏バックパッカー的なラフな格好をしている僕は少し気が引けた。薄汚い小僧が足を踏み入れてすみません、という気持ちでホテルに入った。

 

チケット購入後に、予約していた宿に行きチェックインした。

僕は今回はドミトリーではなく個室を予約していた。というのも、1人、もしくは2人でゆっくり休みたいからだ。もし、何かの偶然で宝くじに当たるような幸運に巡り合って、女の子とワンチャンあったとしても準備はできている。

ドミトリーではそれができないのだ。僕は普段、最悪の結果はあまり想定しないが、常に最高の結果を想定して行動している。

チャンスに備えることは、チャンスを勝ち取るために重要なことだと思う。

 

ネットで宿を予約する際に部屋の写真を見たが、写真では綺麗に撮られているので、実際の部屋とかけ離れていることもあるので僕はあまり信用しない。

今回も僕が正しかったようである。実際の部屋は、ネットに掲載されている写真とは天と地ほどの差があった。

 

シングルが空いてなかったので、僕は次に安いツインルームを予約していた。部屋の中はツインにしてはやけに広かった。

2つのベッドが離れているので、部屋が余計に広く感じる。部屋の中の物はすべて白に統一されていて、清楚感が存分に漂っていて逆に落ち着かない。値段相応のクオリティなのでしょうがない。

 

僕は荷物を床に置くと、離れている2つのベッドをくっつけて一つの大きなベッドにした。これで大きく寝返りを打っても安心だ。

僕はベッドに飛び込んだ。思ったよりマットレスが固くて痛かったが、まあ悪くはない。それから僕は1時間ほど仮眠を取った。

 

目が覚めると、日が少し落ちていてた。暑さも少しは和らいでいる。

僕は再び外に出て、マークとのディナーの約束まで時間を潰すことにした。

 

あまりにもお腹が空きすぎていたので、先にサブウェイで腹ごしらえをした。このあと、マークとディナーの約束があるが、それまでには消化するだろう、欲求には従うべきなのだ、と自制心の低い人がよくやるように、最もな理由をつけて自分を正当化しておいた。

 

そのあとはショッピングモールに行ったりと、とにかく歩いた。

12月とあってクリスマスに向けて街のあちこちが、きらやかに装飾が施されている。蒸し暑いマレーシアの気候でクリスマス感を僕は全く感じない。

手をつないで幸せそうに微笑み合うカップルなど、僕の目には映らない。僕は見たいものしか見ない。

 

 

 

 

マークへ

早く僕に連絡をください。でないと、カップルたちの幸せムードに、僕は押し潰されてしまいそうです。

 

 

 

 

この話がおもしろかったら、いいねやシェアお願いします。