第16話 パトンビーチ
ホステルはパトンビーチから歩いて5分もかからないところにあった。
通りにいろいろなお店が建ち並ぶ中、控えめにアピールする建物に吊るされた看板でどうにか場所が特定できた。
看板の下にある階段が二階の入り口まで続いている。
入り口の前には靴箱があった。スペースが足りず宿泊客たちの靴やサンダルが無造作に散らばっている。
それでも靴が盗まれる心配なさそうだ、と僕は思った。
チェックインを済ませ、ドミトリーの僕のベッドの収納スペースに荷物を収めた。
旅先で引きこもってなんかいられない。僕はそれからすぐに宿を出て散歩に出かけた。
まずはビーチだ。
美しい夕日を見ようとビーチにはたくさんの観光客がいる。僕もその内の一人となるべく、ビーチにたたずむ。
どこにいてもやはり夕日というのは綺麗なもので、鮮やかなオレンジから徐々に闇が空を覆っていく様子に見入ってしまう。
毎日何気なく訪れる夕日ではあるが、今までに僕がそれをじっくりと眺めた回数は数えるほどだろう。
僕が次に夕日を見つめる場所はどこで、どんな気持ちなのだろうか。
夕日を見つめているとなんだかセンチメンタルな気持ちになってしまった。
次だ、次。
次に僕が向かった先はバングラ通り。近辺で最も賑わっている通りである。
どこもかしこむ人だらけで、街のネオンに負けじと人々の顔も生き生きとしている。今を楽しむんだ、という表情だ。
歩いているとだんだんとお腹が空いてきた。でも、がっつり食べたいというほどでもない。
そんな時にちょうどいいものを僕は見つけた。それは屋台だ。
屋台の周りには5、6人ほどの列ができている。
おそらく最初の2、3人は焼鳥の匂いに惹かれてやってきて、そのあとは、本人たちは気づいていないかもしれないが、人が集まっているからという好奇心でいるのだろう。
食べ物を屋台で買う必要はなかったが、僕も好奇心には逆らえず、気がつけば列にならんでいた。
匂いに惹きつけられたのはそれからだ。
売られているものは、焼かれたエビ、よくわからない丸い揚げ物、牛、豚、鶏の三種類の串焼きだった。
この中で僕にとって安全かつ、おいしいものは串焼きだろう。三種類すべて購入したが、金額は覚えていない。とにかく安い。
僕がこれまでに行ったブラジルやインドネシアのバリ島でも串焼きは売られていた。しかし、犬の肉が使われているのではないか、などの噂もある。
だが、今回のものは大丈夫だろう。そう思いたい。
僕がこう述べているからといって、過去に食べた串焼きが犬の肉だったという意味ではないことを断っておく。
一つ一つがひと口サイズよりはるかにでかい串焼きを食べ終わる頃には、僕の満腹中枢は刺激尽くされていた。もう何も入らない。今日の晩飯はこれでいい。
バリ島のように、タイもパスポート見せればバイクを借りられるらしい。
タイでも、ひとりでもツーリングする所存でございます。が、なかなかレンタルバイクが見つからない。見つかってもバカ高かったので、明日落ち着いて探すことにした。
それにしてもバングラ通りにはクラブやバー、キャバクラ的なものだらけである。店の前ではミニスカを履いた露出度高めなキャッチのお姉さんが声をかけてくる。もしかして、僕に気があるのか、とも思ったが、どうやら全員に声を書けている模様である。
男性のキャッチもいて、噂に聞くあの有名なピンポンショーを料金表を見せながら、僕に丁寧に説明してくる。
しかし、ピンポンショーみたいなものは、大人数で行くから盛り上がるのであって、ひとりで行ったって全然楽しくないだろう。
丁重にお断りしておいた。
一応僕だって少しくらいは興味があるので、もし次回友人と来ることがあれば、タイを、プーケットをより理解するためにも、深い考察を得るためにも経験してみようと思う。
少し歩き疲れたし、暑いしで、僕は宿に戻ってシャワーを浴びた。まだ夜になったばかりだし、焦ることはない。今日を楽しむ時間はまだ残っている。少し仮眠を取って、もっとおもしろくなるであろう「レイトナイト」に備えることにした。
仮眠でエネルギーチャージが完了すると、僕はバングラ通りへ戻った。
先程のピンポンショーのキャッチの兄ちゃんが、僕の顔を覚えていて、「なんだ、やっぱりピンポンショーが見たくなって戻ってきたのか」などと言う。
キャッチの兄ちゃんよ、なぜ一人旅の男を呼び込む。周りには大人数のグループが何組もいるぞ。そっちのほうが儲けもでかいし、ノリで店に入ってくれる可能性が高いぞ。
さては、お主も同性愛者で私に惚れているのか、そうなのか。それとも、私ならボッタクれそうなのか。そうに違いない。
僕はキャッチの兄ちゃんを軽くかわして、近くのクラブへ入り込んだ。ドリンク飲み放題で、出入り自由で何度も出入りできるとは、素晴らしい。
それにしても、客はみな出ていったきり戻ってきてないのではないか。店内はガラガラである。
とりあえず、僕はカクテルを頼んで席につく。隣のテーブルにいたウェーブがかったロングヘアが素敵な女の子に声をかけてみる。
聞けば、彼女はモロッコ人で、僕と同じく一人旅しているとのこと。これは仲良くなってワンチャン狙えるパターンのやつや、と思ったのも束の間、これといったおもしろい会話ができず、僕が質問してばかりで彼女からは何も話してこなかった。
これは、あんたになんか興味なし、が確定した。そして彼女はクラブを出ていった。
まだ人が少ないのは、来るのが少し早かったからだろう。現在時刻、夜9時。メンタルを修復する時間も必要なので、一度外に出て散歩するとしよう。
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