英語通訳からのポルトガル語通訳
2年前の夏、当時のルームメイトの日系三世のブラジル人マルセロのお父さんマサルさんが、はるばるブラジルから沖縄に1週間ほど遊びに来ていました。
長時間の飛行機の影響なのか、沖縄についてからマサルさんの耳が聞こえにくくなっていました。翌日、マサルさんが病院に行きたいということで、マルセロも一緒にみんなで耳鼻科に行くことになりました。
診察室に入る前に状況を説明しておきます。
・両親がともに日本人だけど、生まれも育ちもブラジルのマサルさんはブラジルの公用語のポルトガル語しか話せません。
・日本に住み始めてまだ半年だったマルセロもほとんど日本語を話せません。
・僕は日常会話レベルのポルトガル語は話せますが、難しい単語や細かい表現などはわかりません。英語の方がその点では、うまく話せます。
しばらく待ったあと、マサルさんの順番が来たので、僕とマルセロも通訳するために3人一緒に診察室に入りました。
まずは日本語で話す先生の話を僕がしっかりと聞いて理解します。それをマサルさんにポルトガル語で通訳したほうが手っ取り早いので、まずはポルトガル語で通訳できないか考えてみますが、表現が難しすぎるので早々とあきらめ(この間3秒)、マルセロに英語で通訳します。
そして今度は、マルセロがマサルさんにポルトガル語で通訳します。すると、マサルさんがそれに対して話していきます。僕がポルトガル語を理解できるのでマサルさんの話を先生に日本語で通訳します。わからないときは、マルセロが僕に英語で通訳してくれます。
という工程をくり返します。
何度も繰り返しているうちに、
『いったいなんなんだ、この奇抜な伝言ゲームは!』
と、みんなが感じていたことをマサルさんが代表してツッコミを入れました。
そして、それを僕が先生や看護師の方に通訳します。
すると、周りはドッと笑いに包まれましたね。
『面倒くさ! 私は日本人顔なのに、日本語が話せない。私が日本語を話せたら話が早いじゃん!』
マサルさんのトドメの一言で、診察室にいた全員が腹を抱えて笑うという大惨事になりました。
かつて、こんな笑える診察があっただろうか。
診断の結果、耳に大量の耳垢があることが判明してその場で耳掃除することに。先生がマサルさんの耳掃除をすると、梅干しの種並みのサイズのどす黒い耳垢が出てきた。
それを見たマサルさんがぼそっとつぶやきました。
「耳の中に大量のごはん粒が詰まって腐っていたか。がはははは!」
マルセロとマサルさんが大爆笑しているところ、意味がわからずキョトンとしていた先生や看護師さんに僕が通訳すると、やっと笑いが収まっていた診察室が再び笑いに包まれてしまいましたね。
なにはともあれ、メガ耳垢が取れたことでマサルさんの聴力は回復しました。
通訳の通訳をするという珍しい状況の中、顔は純日本人でも「なんでも笑いに変える」という典型的なブラジル人の性格のマサルさんとその息子マルセロのコラボによるマシンガンジョークによって、ネタとしか思えない貴重な体験ができた一日となりました。
この日は、今でも忘れられない僕の人生で『笑える話ベスト5』に入りました。
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