第49話 根に持つタイプ

第49話 根に持つタイプ

 

 

ウブドからマイクロバスで出発して1時間ほど経っていたようだ。マイクロバスが止まったところで目が覚めた。

出発からかっ飛ばしていたので(車ではなくみんなのテンションのことね)早急にエネルギーを使い果たし、車内のほとんどの人が眠っていたようだ。

 

 

 

外を見るとすぐそこにコンビニがあった。運転手が車から降りたところを見ると、どうやら休憩時間のようだ。

おんぼろマイクロバスのドアを開けて、騒ぎ疲れた僕たちは食べ物を求めてコンビニに飛び込んだ。

それぞれが菓子パンやスナック、コーラなどを手に入れてバスへ戻ったところで事件は起きた。

 

 

 

「What are you doing? It’s not a break time!! get in the bus now!! (お前たち、何してるんだ? 今は休憩時間じゃない。早くバスに乗れ!!」

 

 

 

 

バスの前で仁王立ちしている運転手が、真剣な表情でキレてるじゃないですか。

 

 

 

 

かっちーん。僕は運転手の目をじーーーーっと見て言い返してやりましたよ。

「お前がウンコしてる間に買い物してたんだから、別にいいだろうが。ボケーー!!!」

「なんだとー!!! このファッキンジャップ(クソ日本人)、オレが運転手だからオレの指示に従えーーー!!」

 

 

 

僕の高精度な頭の中のシュミレーションの結果、2人が掴み合って殴る蹴るの喧嘩が始まり、僕がボコボコにされることが予想されたので、何も口答えせずに「ごめんね」と軽く言ってバスに乗り込みました。他のみんなは愚痴をこぼしていたけど、僕がうまく彼の怒りを相殺したことを願うばかりです。

 

 

 

車内は険悪ムードになったままさらに1時間が過ぎ、バスがようやく目的地に到着した。しかし、外を見ると目の前に大きなレストランがポツンとあるだけで、周りは木々に囲まれていて、ほとんど交通量のない道が一本あるのみ。

運転手が説明するには、元からここが目的地になっていたらしい。

 

 

 

てっきり宿泊予定の宿まで連れて行ってくれると思っていた一同は、今度こそブチ切れた。

お互いにマシンガンのように放送禁止用語を連射した。お互いに弾切れになってようやく会話になったが、宿まで連れて行け、いや、ここが目的地だの水掛け論で話にならない。

結局、運転手は僕たち以外の乗客を乗せて走り去っていった。

 

 

 

 

僕が推測するには、運転手は根に持つタイプで、出発時にテンションマックスで騒いだ件、コンビニ休憩の件のイライラが積もりに積もって、イライラの根源(ブラジル人5人と日本人2人)を排除したのだろう。

彼の怒りは相殺されていませんでしたね。むしろ、怒りを増幅させて走り去っていきましたね。

今となっては、彼が無事に次の目的地に着いたことを願うばかりです。

 

 

 

 

取り残された僕たちは、目的地のアメドにある宿がすぐそこにあることを知り、ひとまずタクシーを2台呼びました。

しばらくして2台のタクシーが来て二手に別れようとするのですが、みんなの荷物があまりにも多すぎて全員は入りません。

 

 

 

 

自己犠牲の精神を植え付けられて育つ日本人の僕とゆうやは、結果的にブラジル人たちから仲間外れにされたような形になり、ごく自然に、当たり前のように取り残されました。(あとから1台戻ってくる)

自己犠牲の精神が強すぎて取り残されても良しとしてしまうんですよね。

 

しょうがないので、レストランの目の前でゆうやと僕のふたりで時間つぶしです。

 

 

 

じっとしていられない質の僕は、まずはレストランのトイレを借りて用を足すと、ホットコーヒーを注文しました。

コーヒーを飲みながら、バスの運転手との一連のやり取りを見ていたスタッフに愚痴をこぼしましたね。

僕も根に持つタイプなんでね。やつだけに根に持たせてたまるかってんだ。

 

 

 

そうこうしている内に、タクシーが戻ってきてリッキーが僕とゆうやを呼んだ。

できたてでアツアツのコーヒーをまだ半分も飲んでいなかった僕は、スタッフにテイクアウトできないか尋ねてみました。

「オッケー」とスタッフはコーヒーを目の前で透明のペットボトルに移し替えてくれました。なんか斬新だ。

 

 

 

僕がコーヒーを受け取って「テリマカシー(ありがとうの意味)と言おうとすると、「ホッッッッッッット!!」と無意識に声が出てしまいました。手に握っていた、できたてのアツアツのホットコーヒーがクソ熱かったのです。

スタッフに笑われながら見送られました。スタバのようにスリーブなんてないので、ペットボトルにタオルを巻いて熱さ対策を講じました。

 

 

 

 

こうして僕たちは、次の目的地、アメドへと向かったのです。



 

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