第50話 アルマゲドン
僕とリッキーとゆうやがアメドの宿に到着すると、先に着いていたマルセロたちが宿のレストランで座って待っていた。
先にみんなでランチを済ませてから、それぞれの割り当てられた部屋に分かれた。
もちろん部屋の割り当てはマルセロとタイサ、新たに仲間に加わったアレックスとビビのカップルで分かれ、僕とゆうや、そしてリッキーの独身貴族(独身難民でもある)3人衆はいつも通り部屋をシェアする。
しばらくは自由時間ということで、それぞれが思うままに午後を過ごした。
僕は水着に着替えて部屋を飛び出した。宿の中庭には立派なプールがあって、その先には海が広がっている。
ここの海は、僕が普段見慣れている沖縄の白い砂浜とは違う。日本庭園に敷き詰められているような砂利、しかも一個一個砂利が拳以上の大きさの『砂利浜(ジャリハマ)』である。今まで行ったバリ島のビーチと違ってほとんど人がいない。
砂利浜を裸足で走ったら、過剰に足つぼが刺激されて健康になるどころか、体中の臓器が破裂して死んでしまうだろう。僕はそうお思いながらプールサイドのベンチに座り、ぼんやりと午後の海を眺めていた。
プールサイドには5、60代の夫婦と、ブロンドヘアーをなびかせる年頃の娘が1人(おそらく家族だろう)が、ビーチチェアに横たわり日光浴をしている。
僕は妄想にふけり、両親がいるからワンチャンは難しいな、などと考えていると奥の方から水着に着替えたリッキーがダッシュでプールに向かってきた。
奴め、まさか飛び込まないだろうな。この静けさをぶち壊すつもりか・・・。
僕の心配をよそに、リッキーはプールの前で大きく踏み込んだ。
ザッッッッッッッッッパーーーーーーーーーーン
180センチ、100キロの巨体(ちょっと盛ってますけどね)、いや隕石がプールに勢いよく落下した。隕石の豪快な着水音で眠っていたであろう金髪姉ちゃん(メイン)と、老夫婦(僕にとっては単なるおまけ)がびっくりして起き上がった。
と同時に、空中に飛び散っていたプールの水たちが、プールサイドにいたブロンド家族に一斉に降りかかる。
その様子はまるで、ドッキリ番組のようである。
リッキー、やらかす。
ほとんどの人がそうだろうが、寝ている時に起こされると人間は不機嫌になるもので、この3人も例外なくイラッとした表情でリッキーを見つめている。
彼らの視線に気づいたリッキーが軽く謝った。
「ごめん、ごめん。水がそっちまで飛び散っちゃったね。次は気をつけるね」
そっちかーーーーい!!!
その後、彼らの反応を気にすることなく何度もプールに飛び込んだリッキーは、いつの間にかその家族と話すようになって仲くなっていた。
なんじゃ、そのコミュニケーション術は。それで人と仲良くなれるの。
きっと、人の昼寝を邪魔しても全く悪気のない態度が嫌いになれないんでしょうね。
この旅では勉強になることが盛り沢山だ。しっかりと頭の中にメモメモ。
リッキー流コミュニケーション術
『飛び込み営業』ーーー文字通り飛び込みで自分に注目してもらい、自分自身を売り込む。
リッキーが仲良くなったところでうまく輪の中に入ろうとするも、元々内向型の僕は上手く輪に入れない。結局、輪に入るのはあきらめてプールに入った。
悔しいからひたすら無言で泳いでいると、奥の階段の方にブロンドヘアーのビキニお姉さんが1人現れた。
僕の目は彼女に釘付けになった・・・のだが、何かがおかしい。
金髪お姉さんは、C3PO(スターウォーズのロボット)のようなカクカクした動きで、一歩ずつゆっくりと階段を降りてくる。
1時間後・・・(尺が限られているのでカット)
ようやくプールサイドたどり着いた彼女は、先程の金髪姉ちゃんAの隣のビーチチェアに横たわった。どうやら家族らしい。両親がいなければ、ワンチャンどころかダブルチャンスだったかもしれない。僕はそんなことを思いながら彼女たちをちら見しながら泳ぎ続けた。
ふとプールから上がると、いつの間にかリッキーが金髪姉ちゃんA、Bの両方と話していた。
僕が聞き耳を立てていると、どうやら彼女たちも昨日家族でアグン山を登ったらしく、全員が全身筋肉痛で動けない、ということがわかった。
思わぬ共通の話題を手に入れたリッキーは、水を得た魚のごとくマシンガントークを始めた。
リラックスするつもりで来たプールのはずだったが、上手く輪の中に入り込めない僕は、嫉妬レベルがぐーんと上がってストレスを感じながら午後を過ごした。
思わぬ隕石(リッキー)が地球(平穏な午後)を破壊してしまった。彼のことはアルマゲドンと呼ぼうか迷う。
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