第51話 礼を重んじる日本人

第51話 礼を重んじる日本人

 

 

金髪の美人姉妹とその両親は、アルマゲドンことリッキーとしばらく話したあと部屋へと戻っていった。

それからしばらくすると、ダイビングに出かけていたマルセロとタイサ、シュノーケルをしていたアレックスとビビたちが戻ってきた。

 

 

 

部屋で休んでいたゆうやも外に出てきて、全員がプールサイドの席に座って目の前に広がる海を眺めながら雑談が始まった。

そして、どこからともなくスタッフがビンタンビール(バリのビール)を運んできた。きっとマルセロが注文していたのだろう。いつの間に・・・。

 

 

ただでさえおしゃべりなブラジル人たちなのに、お酒が入ってさらにトークが加速した。それはまるで、マシンガンから大型のガトリングガンにグレードアップしたようなもので、連射機能、弾数ともにケタ違いである。

 

 

 

早口のポルトガル語を聞き取るので精一杯な僕は、ゆうやに通訳してあげることもできない。大人数のグループでは喋るのが苦手な僕と、全くポルトガル語を話せないゆうやの日本人2人は、ブラジリアンガトリングガンによって、これでもかというくらい大量のポルトガル語の弾丸を耳に打ち込まれた。

 

 

 

こうなってくると僕の頭の処理速度が追いつかずオーバーヒートしてしまうので、僕は無意識の内に周りの景色を観察してピンチを回避していた。

観察を進めていくと、そぐそばにある興味深いものを見つけた。竹でできたシャワーである。

 

 

 

いつも何かおもしろいネタがないか探している僕は瞬時に閃いた。

「ちょっとポーズ取るから写真撮ってね」と、同じくブラジル人たちの話に入れず口をぽかんと開けているゆうやに頼んだ。

僕はTシャツを脱いでシャワーの前に立ち、ゆっくりと蛇口を捻った。そして精神統一をして精一杯の感謝の気持ちを込めて、海の向こうの遠い日本を思いながら一礼した。

 

『礼を重んじる日本人』

 

 

角度もばっちり。和の心を忘れない日本人。もし礼を重んじるのなら、こうやってシャワーを浴びるのが理想であろう。

僕はただおもしろい写真を撮りたかっただけなのに、ブラジル人たちの会話を途切れさせて注目を浴びてしまった。みんなが笑ってくれたら嬉しかったのだが、こいつ何やってるんだ、というのが彼らの表情から見て取れる。

 

 

 

※僕の名誉のために言っておくが、この写真をSNSに投稿して結構な反響があったことも記しておこう。

 

 

 

一瞬の沈黙が終わると再び彼らは話し始め、トピックは『今夜のディナーで何を食べるのか』になった。

このバリの蒸し暑い気候では全く雰囲気を感じられないが、今日はクリスマス。何か特別なものを食べようということになり、選択肢として上がったのが『バビグリン」(豚の丸焼き)』。

 

 

 

計算してみると日本円で1人3000円と、あまり贅沢のできない貧乏旅行の中でなかなか値段が張る。それでも、今日はクリスマスということで何か特別なものが食べたい。結局、満場一致で『バビグリン』を頼むことにした(ベジタリアンのビビはサイドメニューで我慢)。

宿のオーナーに頼むと、さっそく4、5人のスタッフが何やら慌ただしく準備を始めた。

 

 

 

豚の丸焼きを食べると言われただけで、何のことかあまり把握していない僕とゆうやは、これからどんな残虐なことが起こるとは知らずにぼーーーっと成り行きを見守るのであった。



 

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