第54話 バリで有名な日本人女優
僕たちの隣の席では、バビグリンの準備という大仕事を終えたスタッフたちも飲み食いして楽しんでいる。
楽しそうに飲み食いしているスタッフたちの様子を僕が見ていると、酒を飲んでいるおっちゃんと目が合ってしまった。
ヤバイ・・・絡まれる、と思ったが時すでに遅し。
「おい、兄ちゃん。うまい酒あるから飲んでみろよ」
「あ、はい」
断る術を知らない僕は、反射的に返事してしまった。
おっちゃんがコップ半分くらいに注がれている透明の液体を見せた。見るからに度数が強そうである。スピリタス(96度)ではないことを祈る。
飲みつぶれたり吐いたりしたことがなかった僕だが、過去に合コンで何杯もビールを飲んだ挙げ句に、スピリタスのショット2杯を飲んだときはノックアウトを食らった。トイレで吐いた後にそのまま寝落ちするという最悪な記憶が脳裏をよぎった。
こうなったらヤケクソだと思い、僕は一気にその酒を飲み干した。
酒はアラックというバリの地酒らしく、スピリタスほどではないが、やはり3、40度くらいの強い酒だ。
唐辛子ご飯でやられている喉や胃に追い打ちをかけるかのように、胃の中に再び業火が燃え広がった。
もだえ苦しむ僕を見ておっちゃんたちが笑っている。そして僕に酒を渡したおっちゃんがひと言。
「まあ普通はコーラと混ぜて飲むんだけどね。その方がおいしいからな」
「ハハハ・・・(お前、殺す。もしオレが死んだら、お前の孫の代まで呪ってやるからな)」
おっちゃんに殺意を抱きながらも、ここは満面の作り笑いでどうにかやり過ごした。
僕の心中を察したのか自分と同じ匂いを感じたのか、スタッフのうちの同年代らしき男が、乾杯しようと僕にコーラ入りのアラックを持ってきた。なかなか良いやつではないか。たぶん肌の色が近いから親近感が湧いたのだろう、などと考えながら乾杯した。
それから僕は彼に誘われ、若者スタッフたちが集まる席に招かれた。
あまり英語がしゃべれない彼らに伝わるように、僕はなるべくシンプルな英単語を使うようにしてコミュニケーションを図った。
みんなの自己紹介が終わると、さきほど僕と乾杯したレントッドさんが嬉しそうに話し始めた。
「ユウマ、聞いてくれよ。オレの大好きな日本人女優がいるんだ」
「え、誰々?」
「小澤マリアっていうんだ。知ってる?」
「うん知ってる。知ってる!!! この人でしょ?」
僕はスマホで「小澤マリア」の画像を検索して一番セクシーなエロい画像を見せた。ちなみに、小澤マリアさんは元AV女優で、僕も時々お世話になっていました。
僕がエロ画像をレントッドに見せると、彼が飲んでいた酒を吹き出して興奮しながら「そう、それそれ!!」と頷いた。
「僕も小澤マリア好きだよ。レントッドさんは目の付け所が違うねー」などと言いながら話がさらに盛り上がった。
小澤マリアさんが以前にバリに撮影に来ていたことがあり、それがバリでニュースになったそうだ。レントッドさんはニュースで彼女のことを知り、気に入ったようだ。まさか、バリで日本のAV女優の話で盛り上がるとは想像もしなかったが、それがキッカケで彼らと打ち解けて、翌日に僕をアメドのバーに連れてってくれることを約束してくれた。
クリスマスディナーが終わりみんながそれぞれの部屋に戻った後も、若者軍団と僕は夜遅くまでバリの文化や日本の文化などさまざまな話をして交流を深めた。
やはり、僕にとっての旅の醍醐味とは人との出会いで、とりわけ地元民との交流であることを実感したときであった。
胸いっぱいの幸福を感じながら、ベッドに入り目を閉じた。
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