第67話 足裏タッチ

第67話 足裏タッチ

 

 

特に踊るわけでもなく、しゃべりながらちまちまとお酒を飲んでいた僕たちは、人だらけのフロアにも飽きて、下の階に移動することにした。

 

 

下の階は、上のオシャレな木造デッキとは違ってコンクリートに囲まれ、カラフルなライトが点滅して怪しげではあるが、楽しそうな雰囲気を醸し出していた。スペースもあまりないのだが、人々はその中で所狭しと狂ったように踊っている。

 

こんなときに先陣を切るのがリッキーである。

 

リッキーは人混みの中に飛び込んで踊り始めると、すぐに周りと同化した。僕を含めた残りのメンバーは、遠慮気味にそばで様子を見守っている。

 

 

僕がぼーっと様子を眺めていると、すぐ近くで踊っていたグループの男性と目が合ってしまった。彼は僕に微笑みかけた。一緒に踊ろうよと僕を誘っているようだ。

いや、待てよ。過去にクラブでゲイに好かれて大量に酒を飲まされそうになったことがある。そんなことが脳裏をよぎったが、ここは大丈夫だろう。

 

 

 

この場で楽しまないほうがもったいない。僕は、頭の中のスイッチをクレイジーモードに切り替え、そのグループに混ざった。

数分ノリで踊って、これからさらに楽しもうと思ったときだった。誰かが僕の足を踏んだ。正確には僕のビーサンを踏んだ。その勢いで僕は転びそうになったが、ここはさすがオレというべきか、サッカーで鍛えた持ち前のボディバランスを発揮して片足で持ちこたえ事なきを得た。こんな狭いスペースで派手に転んでしまっては、無駄に目立ってしまうものだ。

 

 

それだけはどうにか避けられたのだが、マルセロたちには一部始終を見られていたようで、音楽がガンガンにかかっていて僕の耳まで彼らの笑い声は聞こえなかったが、笑いものにされていたようだ。

 

 

さらに運の悪いことに犠牲者が出てしまった。ビーサンの鼻緒が切れてしまっていたのだ。

特にドレスコードなどなかったので、いつも通りビーサンで来たのが運の尽きであった。

 

 

片方だけビーサンを履いてても意味がないので、僕は仕方なく裸足で踊ろうと試みたのだが、ふと気がついた。周りにはヒールを履いた女性も何人かいる。一度あることは二度あるものだ。人が密集したこの状況なら、また足を踏まれる可能性は極めて高い。しかも、素足をヒールなんかで踏まれたりしたら、ジ・エンドだ。

 

 

 

僕はクレイジーモードを再びノーマルモードに戻さざるを得なかった。

マルセロたちのもとに行くと、もちろんビーサンのことをツッコまれた。鼻緒がはまらないかといろいろ試したがどうにもならない。

 

 

このあとは結局、何もせずにリッキーが楽しそうに踊るのをみんなと眺めて宿へ帰ることとなった。

 

 

鼻緒が切れてビーサンを失った影響はないように思われたのだが、スクーターの運転をするときに僕は重大な事に気がついてしまった。

裸足でスクーターを運転したら、減速するときに履物が受けていた摩擦をもろに足の裏で受け止めることになる。

 

 

窮地に陥ったときこそその人の真価が問われるときだ。どうやら僕の過去の経験が物を言うときがきたようだ。

 

 

僕がブラジルへサッカー留学をした際、ストリートサッカーで鍛えたのは、サッカーのテクニックというよりむしろ、素足の丈夫さといっても過言ではない。

 

今こそ私のポテンシャルを発揮するんだよ。

 

 

砂や泥で汚れた足の裏が僕に語りかけてきた。

 

 

いや、さっきの段階でそのポテンシャルを発揮しろよと思ったが、大目に見てやって僕は覚悟を決めた。

他のみんなは、僕の断固とした決意のことなど、僕の足裏から醸し出される強烈なオーラなど、まったく知ることもなく出発した。無関心てやつだ。

 

 

 

宿までの道のりで何度となく停車することはあったが、僕の足の裏はアスファルトの強烈な摩擦などものともしなかった。

さすがだよ、足裏っち。

ブラジル人はサッカーボールを足裏で扱うのが得意だけど、みんなと同じなのは嫌だと君は違う道へ進み、アスファルトに対しての強烈なディフェンス力を身に付けた。君と僕でこれからも世界のアスファルトを踏みしめていこうじゃないか。

 

 

 

僕が足裏っちの頑丈さに驚いてるうちに、すぐに宿についた。

僕たちは宿の横の空き地にスクーターを停めた。

 

 

 

あまりの眠気にすぐに部屋に向かおうとスクーターを下りた瞬間だった。

 

 

 

 

 

アガァァァァァァァ!(沖縄の方言で痛いの意味)

 

 

足元を見ると辺りは雑草で覆われていた。しかも茎が硬いやつ。

足裏っちは、どうやら摩擦には強いようだが、その他の刺激に全然ダメなようである。

 

 

ある日の真夏のブラジルで、友達とビーチに2泊3日の旅行に行ったときのことを思い出した。

ビーサンを持っていくのを忘れ、少しの間だから大丈夫であろうと宿から裸足でビーチまで移動したのだが、足の裏を思いっきりやけどした。

 

 

僕はどうにか草がないところを選んで慎重に、一歩ずつ進んで部屋に辿り着いた。

寝る前に足を洗おうとシャワールームに入り足の裏を見ると、先程までのソール(足裏)の自信ではち切れそうだった勇ましいソウル(魂)は、草の茎が刺さり跡形もなくしぼんでいったようだった。

 

 

 

明日は新しいビーサン買わなきゃと思いながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この話がおもしろかったら、いいねやシェアお願いします。