第77話 バリで聞く沖縄の怖い話
今、クタで家族でディナーを食べているところだけど、良かったら一緒にどうだい、というチアゴからのメッセージがあった。
なぜ僕がバリにいることを知っている、僕の動向を逐一Facebookでチェックしているな、さては、オレの隠れファンか、とも思ったが、チアゴはクリスマス休暇で家族でバリに来る予定で、僕とゆうやがバリに来ることを前から知っていたので、出発前からタイミングが合えばバリで一緒に飲もうと約束していたことを思い出した。
完璧に忘れていたが、ついにその時が来たようである。
僕はリッキーも同伴することをチアゴに伝えて、さっそくレストランへ向かうことにした。
ショッピングモールを出ると、すっかり日が沈んで辺りは暗くなっていた。
周りのレストランたちがそれぞれにライトアップしていて、カップル向けのロマンチックな雰囲気を醸し出している。そのムードの中でディナーを楽しむカップルたちを見たら殺意が芽生えてきそうなので、意識的に目を逸らした。
ゆうやとリッキーといるだけで最高に楽しいのである。
ところが、僕の穏やかではない心境を表すかのように、先程まで穏やかだった海は満潮で水位が上がり荒れている。
時折、歩道まで波がジャンプしてくる。タイミングが見計らって一瞬で横切らなければずぶ濡れになってしまう。
先程のビーチでの大量のゴミに感化されて、少し環境問題について関心を寄せた僕は、ここでもこの現象について深く考えてしまうのだ。
普通なら、満潮時の水位まで計算して歩道の高さを設計するはずなのに、波がその高さを超えてしまっている。
ということは、やはり、地球温暖化で北極の氷が解けて海面が上昇しているという現象はバリにまで影響を与えているのか、大変ではないか、などと考えてみたが、今の状況の解決策は、「潮が引いたタイミングでダッシュする」の一択だけなので、これ以上は考えないことにした。
チアゴファミリーがいるレストランは、ショッピングモールから意外と近かったので、そのまま歩いて向かうことにした。
10分ほど歩くと、そのレストランに到着した。
チアゴ夫妻と息子、娘のほかに、チアゴの母親、イタリアに住むチアゴの姉とその息子と娘も来ていた。僕の憧れのヨーロッパに繋がりがあるとは羨ましい。それだけでヨーロッパ旅行のハードルが下がるというものだ。
しかし、残念ながら僕の家系にヨーロッパに住んでいる人はいない。
それで僕はここ数年、Airbnb(民泊)で世界各地のゲストを受け入れ、人脈を広げてきたわけだ。そろそろヨーロッパに行く頃合いかもしれない。
憧れのヨーロッパに思いを馳せてしまったが、意識をバリの地に戻そうと思う。
チアゴファミリーにリッキーを紹介して、おなじみのビンタンビールで乾杯だ。
酒を飲んでいるうちに、いつのまにか話題は、沖縄の米軍基地で起こった惨殺事件になった。
米軍基地のある家で、何年も前に一家全員が惨殺される事件が起こった。そして、その数年後に何も知らずにその家に引っ越してきた家族のひとりが突然おかしくなり、一家全員を殺すという事件が起きたのだった。
霊に取り憑かれたのではないか、霊は存在するのか、という話にまで発展していた。
今まで騒がしかったリッキーは、この話の間、顔が引きつり終始おとなしかった。
そして、こういった心霊現象の話のときに真価を発揮するのがゆうやである。
彼もここぞとばかりに持ちネタを話し始めた。
北谷町の国道58号線で事故が多発する交差点がある。その交差点の横には米軍基地の中にある文化財「北谷城跡」がある。それが事故に影響を与えているというのである。
その交差点にあるビルからは、魂のような光が天に上っていったという、ウソかホントかわからない情報をゆうやは付け加えた。
すると、リッキーはさらに怖がり、明日のカウントダウンをどう過ごすかという話題にすり替えた。
僕は怖がっている様子を表には出してなかったと思うが、リッキーに助けられた形となった。
僕は霊感があるわけではないし、今までにそのような体験をしたわけではないが、はっきり言って怖い話は苦手である。
なぜ、わざわざ話を聞いてまで怖い思いをしないといけないのか、つくづく疑問に思うのである。
話をするなら笑える話の方がいいではないか。バリに来てまで沖縄の怖い話をするなど、間違っているぞ。
クソ暑いバリなはずなのに、鳥肌が立っているででないか。
今は怖い話より、カウントダウンをどう楽しく過ごすかが、よほど重要である。
チアゴたちは家族で過ごすようなので、リッキーがこの中で僕たちと一番年齢が近いイタリアの兄妹の連絡先を聞いて、また明日声をかけることにした。
大人にとってはこれからが活動する時間だが、子どもにとっては寝る時間となったので、ここでお開きとなった。
チアゴがタクシーに乗り込みながら、僕たちに声をかけた。
「子どもたちを寝かしつけたあとならホテルのバーでも飲めるから、もし来るなら連絡してくれ」
チアゴファミリーを乗せたタクシーは走り去っていった。
僕たち3人は、チアゴのホテルに行くかどうか話し合いながらビーチの駐輪場へ向かった。
結論、他にやることがないので、ホテルに向かうべし。
僕たちは第二ラウンドに参戦するために、チアゴが宿泊するホテルへスクーターを走らせた。
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