クレイジーハロウィン第14話 韓国ロマンス

クレイジーハロウィン第14話 韓国ロマンス

 

 

パブに入ろうとすると、入り口に立っていたセキュリティの男がオレの目の前に立ちはだかり、ショルダーバッグを指さした。どうやら持ち物を確認するらしい。

特に何も持ってないけどな、と思いながらカバンの中身を見せると、飲食物の持ち込みは禁止らしく、男はカバンの中にあった水のペットボトルを取り上げて、いけと通してくれた。

 

 

 

中へ入ると、明日は月曜日だというのに、満員とはいかないまでも結構な数の人たちで賑わっている。外から見えたように、やはりいろんな人種がいて国際色豊かである。

そんな人たちの輪に入って仲良くなりたいなと思うオレだが、そこまでの勇気は持ち合わせていなくて、とりあえずカウンターで飲むことにした。

 

 

 

カウンターでビールを飲みながら、目の前のテレビに写るサッカーの試合をぼーと眺めていた。

ふと、横目をやると、すぐとなりでドリンクを注文する韓国人女性が立っていた。オレの視線に気づいて、オレの顔を何か確認するかのように、まじまじと眺めてきた。じろじろ見過ぎではないかと思っていると、彼女が声をかけてきた。

「あなた、日本人ですか?」

 

 

 

いかにも韓国人らしい顔立ちの彼女が日本語で話しかけてきたので、一瞬戸惑った。しかし、なかなか流暢ではあるが、少し違和感のある外国人なまりのある日本語だったので、冷静に韓国人だろうと判断して応えた。

「はい、日本人ですよ」

「えー、本当に! 私、日本語話します。私はハナです。よろしくね」

「私はユウマです。よろしく」

 

 

彼女は久しぶりに日本語を話す機会に巡り会えたらしく、しばらく嬉しそうに話したあと、「一緒に飲みましょう」と誘ってくれて、彼女に引っ張られてテーブルに向かった。

テーブルには他に、韓国人女性がひとりと髭を生やした大柄な白人男性がひとりいた。

 

 

 

ハナさんがふたりを順に紹介してくれた。女性の方は、名はソンで会社の先輩で、男性の方は、名はマークでオーストラリア出身のソンさんの友人でソウルに1年以上住んでいるようだ。

見たところソンさんもマークさんも、すでに結構な量のお酒を飲んでいるようで、だいぶ酔っ払っている。

 

 

 

日本語をしゃべれない彼らに英語で話していると、ハナさんは英語を話せないようで、なんて言ったの、とオレとソンさんに交互にきいてくる。全員の共通言語がないなか、何度も通訳をして遠回りしながらどうにか会話が成り立っていく。話す内容は対しておもしろくもないのだが、日常では体験できない不思議な状況がおもしろ可笑しくなってきた。何か行動を起こすと、何かおもしろいことが起こると改めて実感した瞬間であった。

 

 

 

そのような状況がしばらく続いていたのだが、限界を超えたのか、ソンさんがテーブルに伏せて眠ろうとすることが多くなってきた。その度にハナさんとマークさんが揺すって彼女を起こすのだが、なかなか起きてくれない。

そんなときに、ハナさんがオレに日本語で話しかけてきた。

 

 

 

「このふたりはとても酔っ払っているみたいだから、先に家に返してふたりで他の店に行きましょうよ。でも、それには、ちゃんと先輩を送り出さないといけないの」

どうやら韓国の上下関係は、日本のよりも厳しいようである。目上の人より先にお酒を飲んではいけない、片手で握手をしてはいけないなどの細かい作法があるようだ。

 

 

 

ハナさんはどうやらオレと飲みたいようだ。もっと日本語を話したいのか、オレのことを気に入ったかはさておき、なんだか嬉しくなってきた。

こうなってしまうと、オレもがんばる理由ができたので、下心を原動力に必死にソンさんを起こす。

 

 

 

どうにかこうにかソンさんを起こして、ハナさんがタクシーを捕まえてソンさんを中に放り込んだ。

ソンさんが運転手に目的地を告げるとドアは閉まり、タクシーは走り始めた。ハナさんが丁寧にお辞儀をしている横でオレは手を振って見送った。

 

 

 

マークさんはというと、だいぶ酔っていて千鳥足なのだが、「オレは大丈夫。歩いて帰る」と言い張って夜の街へふらふらと消えていった。

よし、邪魔者はすべて排除したと思ってニヤニヤしていると、「サムギョプサル(韓国焼き肉)食べに行きましょう」とハナさんがオレの手を引っ張った。

 

 

 

オレは手を引かれるがままに彼女と歩き始めた。