クレイジーハロウィン第15話 続 韓国ロマンス

クレイジーハロウィン第15話 続 韓国ロマンス

 

 

焼肉屋の店内に入ると、明日は月曜日、いや、すでに月曜日、午前2時すぎだというのに、意外にもたくさんの客が入っている。韓国の人たちは、そんなに焼き肉が好きなのか。

店内は、エイミーたちと行った庶民的な若者向けの焼肉屋とは違って、壁やテーブル、椅子などは黒で統一されていて、高級な雰囲気を醸し出している。こんな高級そうな店へ来てオレの懐事情は大丈夫かと思いながら、ハナさんと席についた。

 

 

 

ふたりともビールを頼んで、あまりお腹が空いてなかったオレは、ハナさんに食べ物の注文を任せた。

しばらくすると、店員がビールを2つとムール貝とチキン唐揚げが入った皿を1つずつ運んできた。

韓国では、ビールと一緒にチキン唐揚げを食べるのが一般的で、「とりあえずチメックーチキンとメクチュ(ビールの意味)ー」てな感じで注文するらしい。

 

 

 

ムール貝はまだしも、この時間帯にチキン唐揚げは重いなと思いながらも、沖縄あるあるで、おばあちゃんの家に遊びに行くとよくある「カメーカメー攻撃(どんどん食べなさい)」を、ハナさんから受けた。

これからハナさんとムフフなことが起こると思っているオレは、彼女に好印象を残すために、胃袋にムチ打って無理やり食べることにした。

 

 

 

どんなことを話せばいいか考えていると、ハナさんが突然口を開き始め、どんな話をするかと思えば、日本語で旦那さんの愚痴を話し始めた。

待て待て、結婚してるんかい!?

オレはうまく動揺を隠せたのか心配したが、彼女はオレの反応を特に気にしている様子もなく、延々と話し続けた。

 

 

 

ふと時計を見ると、午前4時になっていたが、まだ彼女の話は続いていた。日本語だから周りの人に聞かれる心配もなく堂々と話せて、ストレス発散にもなる。彼女にとってはメリットだらけではないか。ははーん、それが狙いでパブでオレに声をかけたんだな。確かにハナさんに声をかけられたときは超絶に嬉しかったのだが、「オレは人の愚痴を聴きに韓国まで来たんじゃない!」と心の中で叫んだ。オレの中の良心は、良い人になるんだと命令を下していたので、かろうじて聞き役に徹していた。

 

 

 

世の中の大多数の人が寝ている明け方に、2時間も愚痴を聴いていられるわけもなく、だんだんとオレのまぶたは重くなっていき、自然とあくびが出てきた。

「そろそろ帰りましょうか」

オレのあくびに気づいたのか、それとも愚痴を吐き出して満足したのか、彼女が席を立った。

 

 

 

高級感のある焼肉屋だったので、いったいいくらになるのだろうかと心配していると、ハナさんは年上の少し余裕のあるお姉さんというオーラを出して、笑顔で「話を聴いてくれたお礼よ。私が払うわ」と、さっさと会計を済ませた。

「さあ、一緒に帰りましょう」

そう言って彼女はタクシーを拾った。オレは内心、今日はこのまま一緒にイチャイチャするんだなと思い、口元が少し緩んだ。

 

 

 

「どこに泊まってるの?」

「シンチョン駅の近くです(やったね。オレが泊まってる宿に来るんだな)」

彼女が運転手に伝えると、タクシーはシンチョンへと向かった。

 

 

 

思ったよりも早くシンチョンにつき、ちゃんと彼女をエスコートしなければと思い、オレが先に車から降りた瞬間に思いがけない彼女の一言に胸を撃ち抜かれた。

「今日は楽しかったわ。沖縄行くかもしれないからよろしくね。おやすみー」

えぇー!?一緒に来ないんかい!!

心の中で叫んで渋々ドアを閉めて、彼女を見送ったのだった。

 

 

 

いったい、オレの韓国ロマンスはどこへ行ってしまったんだ。非常に悔しいが帰って寝ることにした。そんな早朝5時。

チェックアウトの時間は11時なので、10時半にアラームをセットして、すぐにベッドに飛び込んで目を閉じた。

 

 

 

何も誇れはしないが、韓国でのこの3日間で1日たりとも欠かさずに、今までにないくらいにはしゃいで3日連続で朝帰りするという人生初の快挙を成し遂げたのである。

明日、といってもすでに今日が帰る日ではあるが、帰りの飛行機は夕方なので半日は時間がある。寝る時間は限られているが、しっかり休んで体力を回復しておこう。