クレイジーハロウィン第5話 観光地で転がる。転がる。
オレとエイミーがソウルの観光名所のひとつ、キョンボックンに着いたのは夕方4時過ぎ。徐々に日が沈み始めていた。先程までの太陽の温もりは既にどこかへいってしまって、肌寒くなってきている。
閉館時間まで2時間もないので、チケットを購入して少し急いで中に入った。
門をくぐると、目の前には大きな中門がもうひとつ。沖縄の首里城よりも規模が大きい。周りにはまだたくさんの人が歩いている。なかには、民族衣装のチマチョゴリを着ている人もちらほら歩いている。
スケールの大きさに驚きながら、中門をくぐると本殿が目の前に現れた。
ここで、とりあえずカメラをエイミーに向けてみると、ノリよく笑顔でかっこよくポーズをとってくれた。
そして、そのまま本殿へと進んだ。本殿の中には入れないので、周りから中を覗いた。天井は極彩色で豪華に装飾されている。閉館まであまり時間がないので、長くは留まってはいられない。本殿を少しだけ眺めて次へと移動した。
宮殿内には建物だけでなく、庭園がきれいに整備されていて自然も美しい。道順など気にせずに進んでいると、次の門へと続く砂利道の横に広大な芝生が広がっていた。自然が大好きなエイミーは当たり前のごとく芝生を歩き始めた。オレもエイミーのあとをついていくと、彼女は芝生に腰を下ろしたので、オレも彼女の左側に座った。
「この芝生気持ちいいね」そう言って、エイミーは芝生に大の字に寝転がって、静かに目を閉じた。
「うん、最高だね」オレも一緒に寝転がった。
オレたちの周りにはちらほら歩いている人がいたが、そんなことは気にしない。
「私に追いつける?」そう言って、彼女が急に右へ転がり始めた。
「え、マジで?」不意をつかれたオレも負けじと彼女のあとを追って、全力で転がり始めた。オレはすぐに追いつくだろうとたかをくくっていたのだが、一向に彼女に追いつけない。
そのまま差を縮めることができずにいると、急に彼女は止まった。オレが追いつくと、ふたりとも大笑いした。
「オレたちバカだね。だけど、とても楽しいね」
先程座っていた場所を振り返ると、いつのまにか50メートルくらいは離れていた。
「2回戦だよ。はい、スタート」
彼女の不意をついてオレは転がり始めた。彼女もあわててオレを追いかけて転がり始めた。2本目は息が上がって先程よりはスピードが上がらない。彼女が難なく追いついてオレを捕まえた。またふたりで笑いあったのだった。
エイミーといると、彼女が何をするのか予測がつかなくておもしろい。オレはこのとき、彼女のそういうところが好きなんだなと気づいた。
ふたりは起き上がると、交代で背中についた落ち葉や草を取り合った。はたから見ると、その姿はまるで、毛づくろいする二頭の猿だったに違いない。キョンボックンの歴史の中で、宮殿内の芝生で転がったのはきっとオレたちが初めてだろう。
50メートルのローリング競争を終えて、オレたちは次の場所へ進んだ。他にもいろいろな建物があったのだが、以前にも来たことがあるエイミーと、観光にあまり関心がないオレはさっさと通り過ぎていった。
奥へ進んでいるうちにエイミーの足を止めたのは、またしても自然だった。
自然に囲まれた広場の中でとりわけ目立ったのは、大きな木だった。その木はエイミーの木を引いたのだった。
彼女はその木に抱きつくと、写真を撮ってくれとお願いした。沖縄で彼女を海に連れて行ったときも感じたが、彼女はとことん自然が好きらしい。彼女といるおかげで、オレも自然の新たな魅力に気づいて、さらに好きになったような気がする。
閉館時間が迫っていてすでに観光客は少なくなっていたが、運良くカップルを見つけると、オレたちの写真を撮ってくれるようにお願いして、一応記念写真を撮っておいた。
ちなみに、エイミーは164センチの俺より背が高いが、胴の長さはオレの勝ち。ローリング競争は負けたけど、胴の長さはオレの勝ち。笑
キョンボックンを出てカフェへ寄ってひと休み。ゆっくりとコーヒーを飲みながら、冷えた体を温めた。それから、今夜のハロウィンのために、エイミーが友達を誘うためにメッセージを送り始めた。
エイミーと一緒に沖縄に来ていたアリサは残念ながら、体調不良で来れなくなった。昨夜は病み上がりでオレに会いに来てくれたのだが、セーブが聞かずに飲みすぎたし、はしゃぎすぎたしでまた体調が悪化したのだろう。まことに残念である。
オレにとってハロウィンが今回の韓国でのメインイベントなのだが、いったいどうなってしまうだろうか?
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