第15話 小さな一歩
カニの驚異からち◯こを守って次にやってきたのは、これまた、ビーチに面したバー。
今のところ、レンボンガン島で行った飲食店はすべてビーチに面したものだった。
島の内陸部には何も無いのかと不安になってしまう。
もし夕方に来たら、このビーチから綺麗なサンセットが見れそうな気がする。
きれいな夕焼けを想像しながらバーに入った。
バーは木造の屋根付きデッキに、カウンター席とテーブル席があって、すでにたくさんの観光客で埋め尽くされている。
仕方なく、オレたちはビーチに用意されているビーズクッション席に陣取った。
人数分のクッションがなかったので、周りから調達しなければならない。
みんなに先に席を取られて、椅子取りゲームに負けたような気持ちになった負け組のオレとゆうやは、運良く近くに余っているクッションを発見した。
余っているクッションを発見したものの、なんとなんと、そのクッションはいいムードでイチャイチャ中のカップルの真横にある。このクッション以外に選択肢はない。
そのままクッションを持っていったら失礼だろうけど、ふたりのムードも壊したくない。
オレは1秒だけ迷った挙げ句、
「すみません。お取り込み中邪魔して悪いけど、そこの余っているクッションを持っていってもいいかな?」
「もちろん! 大丈夫だよ」
「ありがとう。ちなみに、このバーとっても雰囲気いいね。キスしたくなるのもわかるな。
でもオレ、童貞でキスしたことがないんだ。ふたりに混ざってもいい?」
「ハッハッハッハ。いいよ! てなるわけないだろうが。早くクッション持っていきなよ。笑」
ノリのいいカップルは、オレの冗談にノッてくれながらも、丁重に追い払ってまた自分たちの世界に入り込んだ。
自分たちの席にクッションを持っていき、とりあえず腰を下ろすとお尻にひんやりと冷たいものを感じた。
どうやら日中に雨が降ったようで、クッションが乾ききらずに、ところどころ濡れている。
仕方なく、クッションの乾いている部分を探し出して、そこに座った。
ジョッタとカウンターにドリンクを頼みに行くと、隣には二度見してしまうくらいの美人な金髪のお姉さんが2人だけでドリンクを頼んでいる。
せっかくバリ島に来ているのだから、楽しまなければという思いがオレを動かした。
ジョッタが隣にいることを気にせずに、とりあえずそのふたりに声をかけてみた。
「ねえ、ドリンク何を頼んだの?」
「ジントニックよ」
「いいね。いくらだったの?」
そこから対して話は広がらず見事に撃沈した。慣れないことはするものではないな。
それでも、金髪美女に物怖じせず話しかけられたということが、オレの中で密かに小さな自信となった。
毎回ビンタンビールを飲んで少し飽きてきていたので、赤ワインに果物をつけたお酒、サングリアをゲットして席に持っていった。
サングリアをジョッタとゆうやと3人でシェアすることにした。
人生初のサングリアを一口飲んでみる。口の中を、最初にいちごやオレンジの酸味と甘味が満たして、それから赤ワインの味があとから広がっていく。
甘い物が好きなオレにとってぴったりなお酒だ。
しばらく話したあと、リッキーが体調が悪いということで先に帰ってしまった。
それから間もなくして、ゆうやも帰っていった。
次第に周りの人も帰っていって、残されたのはマルセロとタイサ、オレとジョッタだけだ。
ん、待てよ。この状況は初日の夜と一緒ではないか。
このままここにいては、またマルセロとタイサのイチャイチャを見学するはめになってしまう。オレもそろそろ帰ったほうがいいな。
今夜もマルセロはタイサの家に泊まるので、オレはジョッタを送って帰ることになった。
帰る前に用を足しにトイレへ向かうと、なんと、先ほどの金髪美女の片割れがこちらに向かって歩いてきた。彼女と話す最後のチャンスだ。
「また会ったね。でっかいうんこ出た?」
「うんこしてないわよ。笑 またね」
おい、オレ! 子どもか!!笑 なんだ、その声かけは!笑
緊張してやっと絞り出した会話がそんな低レベルなものとは、自分自身でも予想外だった。
彼女とうまく仲良くなっていたら、連絡先くらい交換できたかもしれないのに、と、反省しながら用を足して、ジョッタの元へ戻った。
今回は、会話の内容はどうであれ、ものすごくシャイなオレが美女に2回も声をかけられたので良しとしよう。
さあ、気持ちを切り替えて、ジョッタお嬢様を家まで送り届けるというミッションに集中しよう。
ヘルメットを被って、バイクのエンジンをかけた。
ちなみに、バリ島では飲酒運転はスタンダードです。笑
小学生くらいの子どもが運転していたり、家族6人で1台のバイクに乗っていたりと、ヘルメットさえ被っていれば大丈夫なように思います。
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