第3話 シンガポールはすごいぞ
建物の外観と比べたら少し古さを感じるサトシの部屋ではあるが、可もなく不可もなくといったところだ。サトシの部屋には寝室が三部屋あった。
元々は3人でシェアしていたが、1人が出ていってしまったので、最近から一部屋をカウチサーフィンのゲスト用にしているとのこと。
もうひとりのルームメイトは仕事に行っていて、今はいない。
僕の前にもドイツ人の男が1人泊まっ今朝出たらしく、僕のための部屋は少し散らかっていた。
タダで泊めてもらうわけだから、もちろん僕としてはそんなことは構わない、と僕はサトシに伝え、泊めてくれることに改めて感謝した。
カウチサーフィンというだけあって、本当にカウチに寝るものだと思っていた僕は、ちょっと得した気分になった。
寝室に荷物を置いて、僕とサトシはリビングのカウチに座り少し話した。
サトシはモーリシャスという小さな島の出身で、数年前にシンガポールに移り住み、今は劇団の仕事をしているらしい。
明日の夜、何も予定がないのなら、稽古があるから見学させてあげる、と僕を誘ってくれた。
僕としてはそういったものにはあまり興味がないのだが、せっかくホストが誘ってくれてれるので、ぜひお願いします、なのだ。
僕は旅に出る度に、何かチャンスがあればとりあえず食いつく、ということを繰り返して素晴らしい経験ができている。
ほとんどの場合があっと驚くハプニングなのだが、それは僕を成長させてくれるスパイスなのだ。時々、本当に激辛のスパイスにあたるのだが、それもまたよかろう。
サトシは僕にいくつかの街のおすすめスポットを紹介して、部屋の鍵を渡してくれた。
彼はこのあと用事があるらしく、僕はひとりで街へ繰り出す。
アパートを出て駅へ向かっていると、大都会シンガポールを象徴するかのような車を信号待ちの車たちの中に見つけた。
金のBMWの豪華さに驚くより、センスの酷さを感じる。持ち主は自己顕示欲が強すぎるのだろう。
持ち物を見せびらかしたくないし、自分自身も人混みではあまり目立ちたくない僕としては、金ピカBMWよりも映画「007 ダイ・アナザー・デイ」にボンドカーとして登場したアストンマーチンが欲しいところだ。
なぜかというと、その車には光学迷彩装置なるものが装備されていて、車のボディ全体がカメラとディスプレイになり周辺の景色に溶け込むことができるからである。
まあ、要するに、さすがに金のBMWはダサいと思うのである。
と思った矢先、金に輝く寺院か何かの建物を発見した。
もしやこの国、見栄っ張りの集まりなのか。いや、たった2つの事象から判断するには早すぎる。
判断せずに情報として記憶に留めておこう。
僕は電車に乗り、まずはサトシのおすすめスポットへ向かった。
そのおすすめスポットがこれだ。
一見、ヨーロッパを思わせるような古風な建物が立ち並ぶが騙されてはいけない。
そう、ここは・・・
世界中どの国に行ってもある、チャイナタウンである。
シンガポールに来てまでチャイナタウンか、と思いつつも僕は歩を進めた。そして、僕はすぐに興味深い看板を見つけた。
カサノバ・・・生涯で1000人の女性とベッドを共にしたと言われるナンパ師であり、作家でもあった。
いったい何の店なのだろうか、カサノバは僕の好奇心をくすぐった。
僕はすぐに店の前まで行き確認した。
なんだか、ものすごくカラフルに彩られてると思い、僕がショーウィンドウまで近づくと何の店かが判明した。
大人のおもちゃのお店でした。
ひとりでアダルトショップのショーウィンドウを見つめている僕は、傍から見ればさぞかし変態に見えたに違いない。
どおりで通行人が必要以上に僕をかわして通り過ぎていくわけだ。
今のところ僕に大人のおもちゃは必要ないので、チャイナタウンの奥へと進んだ。
すると、そこには寺院があり、そばにはカラフルで特徴的な塔が立っていた。
僕は、以前にこの塔をどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。3分ほど頭の中の記憶の引き出しを探し回ると、ようやく見つけた。
やっぱりイナバ、100人乗っても大丈夫!
ここにもあったか、イナバ物置。
怒られそうなので、先に謝ります。ネタにしてどうもすみませんでした。
その後、ショッピングモールに行ったりしたが、特に僕の興味を引くものはなかった。
僕は消化不良でマサラタウン(サトシのアパート)に戻り、アパート敷地内の公園のベンチに座り休んでいた。
すると、20メートルほど僕から離れた通路を歩いていたおじさんが立ち止まり、その場でしゃがみこんだ。
あのおじさん何してんだ、そう思いながら僕は横目で見つつも見ないふりをした。
僕の目にはしゃがみこんだおじさんの背中しか見えないが、彼が何をしているかのかが僕にはっきりとわかった。
ビチョビチョビチョビチョ
液体が地面に落下する音がする。立ちション、いや、この場合は座りションというのか。
その音でエレベーターの「おしっこするな」の張り紙が誰に宛てたものなのかがはっきりした。
間違いなくこいつだ。
用を足すと、おじさんは何事もなかったかのように立ち去っていった。
僕はすぐにスマホにメモした。
シンガポール、初日からすごい!!!
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