第9話 世界最強の寝具

第9話 世界最強の寝具

 

 

僕がターミナルに到着すると、マークが少し眠そうな顔とともに温かく迎えてくれた。

僕が彼に放った第一声はもちろん、「long time no see(久しぶり)」ではなく「I’m so sorry(誠に申し訳ありませんん)」である。

しばらくヒッチハイクは控えようと思う。

 

まずは、マークが僕を車でカウチサーフィンのホストの元へ送り届けてくれる。着いたら連絡して、と言っていたホストに、僕たちが今向かっていることをメッセージで伝えた。

 

約15分でホストがメッセージで送ってくれた住所にたどりつくと、そこには20階ほどある豪華なマンションが建っていた。

セキュリティーもしっかりしていて、有人のゲートを通り抜けないと中に入れない。

 

セキュリティーの男にカウチサーフィンのホストの名前を伝え、今夜、彼女の部屋に泊めてもらうことになっていることを話した。一応、彼氏ではないことも付け加えておいた。

しばらくゲート前で待っていると、バーが上がり車が通れるようになった。ゲートを抜けるとすぐ先に駐車場があって、マークはそこに車を停めた。

 

ホストから連絡が入り、建物の入り口まで降りるからそこで待ってて、とのこと。

僕は車から荷物を取って、入り口に向かった。マークを一緒についてきてくれた。

 

入口には頑丈な鉄格子の扉があった。カードキーか何かでロックを解除してからしか開かないようだ。マンションの厳重なセキュリティに関心しているところに、眠そうな顔をしたホストがやってきた。

「こんな時間に訪ねて、誠に申し訳ありません」

僕はジャパニーズ土下座を示す覚悟で(実際にはやっていない)、彼女に謝った。

 

「いいのよ」

彼女は特に気にしていないようだ。(僕が勝手にそう思い込んだ可能性大)

眠いからなのか、元々そのような性格だからかわからないが、彼女から少し無愛想な印象を受けた。

 

マークが彼女に説明してくれて、スペアキーがもらえるなら部屋に荷物を置いて少しだけ外出したい、と伝えるとうまく承諾してもらえた。

話がまとまると、彼女は扉を開き、部屋に案内してくれた。

 

エレベーターに乗り4階で降りると、その先の通路で再び鉄格子の扉に出くわした。

どんだけこのマンションは厳重なんだ、過去に何度も強盗に遭った末のセキュリティのアップグレードか、などと考えていたが、そうでもなかった。

ドアノブを回すと、すぐに扉は開いた。意味を成さないただの邪魔な扉なのだ。

 

彼女の部屋はマンションの外観通り高級感溢れ、広々としていた。

広々としたリビング、リビングに隣接する料理するのに十分すぎるスペースのキッチン、生活感を感じさせないほどキレイに整理されたシャワールーム、寝室が三部屋もある。豪華すぎる。

 

僕は寝室に案内され、そこに荷物を置いてリビングに来るように指示された。

部屋にはショートカットの金髪のお姉さんがベッドで横になりながら本を読んでいた。彼女に軽くあいさつをしてから僕は部屋を出た。

 

僕がリビングに行くと、彼女はペラペラの空気が入ってないエアマットレスと空気入れを持って、これに空気を入れてここで寝てね、と指示をしてスペアキーを渡して寝室に戻っていった。

最初からエアマットレスで寝る話になっていたので、特に驚きはしない。寝る場所があるだけありがたいというものだ。

 

駐車場でマークを待たせているので、エアマットレスに空気を入れるのはあとにして僕は外へ出た。

 

 

ジョホールバルでドーナツを食べて以来、7時間以上何も食べていない僕は腹ペコだ。

マークは僕を24時間営業の大衆食堂に連れていってくれた。

僕はそこでミルクティーとマレーシア風焼きそばにがっついた。マレーシア料理はインドネシア料理と共通する部分が多いので、味がにているマレーシア風焼きそばは僕にバリでのことを思い出させた。

 

 

 

 

深夜3時、男二人でご飯を食べながらの談話。うん、悪くない。

マークとは沖縄でエアビで知り合った。ホストとゲストという関係だったにもかかわらず、「ゲストにできるだけ関わる」という僕のスタイルで観光案内したりしてここまで仲良くなれたのだと、今更ながら思う。

 

人はお互いに心を開けば開くほど、お互いのことを理解し合うほど、より強固な関係、つまり友情や愛情が深まっていくのだろう。

 

夜も遅いので、もうすぐ朝なので、僕たちはあまり長いせずに引き上げた。

マークは僕を再びマンションに送り届け、明日の夜、一緒にディナーを食べる約束をして別れた。

 

僕は再びいくつものセキュリティをくぐり抜けて、ホストの部屋にたどり着いた。

 

みんな寝静まっているので、なるべく音を立てないように洗面所に移動して歯を磨いた。それから寝る準備だ。

リビングでエアマットレス空気を入れようと、空気入れにセットする段階になって、僕は重要なことに気づいてしまった。

 

空気入れをマットレスの空気注入口に接続するためのコネクターがない。

 

僕はエアマットレスが入っていた箱の中を見たが空っぽだった。コネクターなしでも空気が入るか試したが、もちろん入るはずはなく、空気入れの先から、クロール中の息継ぎのような轟音がするだけだ。

 

眠さで思考力が低下していて考えるも面倒だ。僕は即決した。

床で寝る。

 

今日はエアマットレス(air mattress)なし、つまりマットレス(mattless)で僕は寝る。

*レス(less)には、「ない」という意味があります。

 

 

どこでも寝れる僕だから気にしないけど、せめてホストにこの事実に気づいて欲しいので、空気が入っていないエアマットレスを敷いてその上で寝た。

 

僕は世界最強の寝具、エアレスマットレス(airless mattless)で寝たのだ。要するに、床で寝ました。

 

 

 

 

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