第29話 人生で一番にやけた瞬間
マレーシアでの最後の夜を楽しむために、再びオレは歓楽街へと戻った。
まずはじめにバーでビール一杯を頼んで、飲みながらこのあとのことを考える。
席について辺りを見渡していると、バーの向かいの建物から大音量の音楽が音漏れしている。
スモークガラスで覆われていて中の様子はわからないが、よく観察してみると人がちらほら出入りしている。どうやらクラブのようだ。
うーん・・・今夜ひとりでクラブ入って楽しいだろうか。自分に問いかけてみる。
しかし、答えはNO。日中歩き回り過ぎたので、オレの体がクラブを拒否している。
今夜はあまり気分が乗らないようで、ビールを飲み干してバーから出た。歓楽街に戻ってきたものの、他にやることもないのでホステルへ戻ることにした。
脚の疲れはピークに達していてゆっくり歩いて帰るところへおばあさんが声をかけてきたのだった。
「お兄さん、疲れているようだね。マッサージはどうだい? ハッピーエンディングもあるよ」
最初おばあさんからの逆ナンかと思ったが、マッサージ店の客引きのようだ。前日のマッサージの客引きも言っていたように、ハッピーエンディングのオプションもあるらしい。
普段なら無視するのだが、疲れていた体がマッサージの言葉に反応したようで、たまにはマッサージもいいだろうと思い、おばあさんに案内されて怪しげなビルに入った。
たまには騙されてみるのもよかろうもん。笑
ビルのエレベーターで上がって広いフロアへ案内された。
ソファに座って待つように支持されて、言われるがままにソファで呼ばれるまで待つ。周りを見渡すと何組も男女がいてお酒を飲んだり会話をしている。キャバクラのようなところなのかと疑問に思っていると、支配人のような男性がオレのところにやってきた。
「お客様、お待たせしました。準備が整いました」
そう言って支配人が一歩下がると同時に、胸元や脚が強調されたセクシーなドレスを来た女の子たちが奥の方からずらっとオレの目の前に整列した。セクシーすぎて目のやり場に困る。
「・・・」
女の子たちがじーっとオレの方を見つめている。こんなたくさんの女の子の注目を浴びたことがないので、あまりの恥ずかしさに言葉が出ない。
「さあ、お客さま、この中から女の子をひとりお選びください」
そういうことかと思い、女の子たちの視線に耐えながら、ひとりひとりをチェックしていると、その度に女の子は「私を選んで。私と楽しみましょう」とでも言いたげな色目を使ってきた。
自分を客観的に見て冷静に判断すると、間違いなく今の自分は人生で一番にやけている!!
これが噂に聞いた、東南アジアで多くの日本人男性がする大人の夜遊びなんだと悟った。
にやけた顔を一度真顔に戻してから、その中に何人もいた巨乳お姉ちゃんではなく、一際目立っていた金髪のショートカットの子を指名した。
女の子を指名すると、先程の客引きのおばあさんがオレの元へ来てチップを求めてきたので、少しチップを渡すと立ち去っていった。それから支配人にも料金を払った。日本円で5000円以下なり。
「さあ行きましょう。私を選んでくれてありがとう」
女の子に手を引かれてフロアを抜けて個室へと案内された。やはり日本人の客が多いらしく、彼女は簡単な日本語を話してきた。おかげでオレの緊張も少し和らいだ。
彼女はベトナムから出稼ぎに来ていて、ここで稼いたお金を家族に送っているそうだ。他にも近隣国から出稼ぎに来ている女の子がたくさんいることなどを話した。
最初にシャワーを浴びて、それからベッドに横たわった。そして、待ちに待った彼女のマッサージが始まった。たっぷり1時間のマッサージとハッピーエンディングの最高のリラクゼーションを味わって心身ともに癒やされた。
ビルを出ると、また近くの路上で客引きおばあさんに出会う。
「どうだい? 楽しんだかい?」
「はい! とってもよかったです。ありがとうございます」
「そうかいそうかい。よかった。気をつけてお帰りなさい」
おばあさんに手を振って別れてからホステルへ向かった。
バッテリーが見つかるまでどうなることかと思ったが、ミッションをクリアして、ジョナスと再会して、大人の夜遊びも体験してまさにハッピーエンディングという形で一日を終えたのだった。
ぐっすり眠るゆうやのとなりで、にやけ顔を残したまま眠りについた。
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[…] で僕たちは、バリマッサージを受けに行くことにした。もちろん、今回はハッピーエンディング(「人生一番にやけた瞬間」参照)など求めていないので、ごく普通のバリマッサージだ。 […]