第44話 クリスマスプレゼント
クリスマスイブ二軒目のバーは、アグン山登頂の直前にもお世話になった、リサとユナのいるミュジックバーへ。
バーの前に差し掛かると、ユナが昨日と同じく笑顔で呼び込みをしていた。
オレたちの姿を見つけると、もちろん飲んでくわよね、といった具合にわずかに流し目を使ってオレたちに声をかけてきた。
その手には乗るか……いや、乗っておこう。お前らと話していると楽しいんだ、というのは内緒にしておくがな。まんまとユナの手口にハマったフリをして、オレたちはカウンターに座った。
ゆうやとリッキーは、もしかしたら他のバーに行きたかったかもしれない。だが、オレの『後生の頼みを聞いてくれ作戦』が効いたようだ。もちろん、人生で何回かは使うことになると思う。
みんなで乾杯するとリサとユナが来たので、オレたちのアグン山との戦いを、オレたちが、特にオレがどれほど勇敢なのかを三割盛って話した。壮絶な戦いの末、全身筋肉痛というダメージを負ったこともすべて話した。ふたりの眼差しからは尊敬の念が感じられる。そうだ、もっと尊敬していいぞ。
ふたりのオレたちを見る目が、明らかに変わっていた。特に、ゆるいウェーブがかったロングヘアの童顔のリサ。彼女と話していても、時々、彼女の尊敬の眼差しがオレからずれる。その視線の先には、ゆうやがいる。そっちかい。まあゆうやはイケメンだから当然のことか。
「隣の友達の名前は何?かっこいいわ」
「ゆうやだよ。彼と話してみたら?」
「無理よ。恥ずかしくて、話せないわ」
なんでやねん(沖縄の言葉で的確な言葉が見つからないので、これから何度となく拝借させていただきます)。おい、オレと普通に話して、ゆうやには話しづらいとはどういうことだ。ゆうやにはイケメンの話しかけづらいオーラを感じるのか。いや、オレには話しやすいオーラがある、と良いように解釈しておこう。
ゆうやにリサがかっこいいと言っていることを伝えると、タイプじゃない、と貴重なお言葉をいただきました。これがイケメン特有の選択肢がありすぎでバッサリと切り捨てられる余裕か。貪欲なオレにはとうてい真似できない。来るもの拒まず、去る者は逃げる前に必死に引き留めよう。冗談である。ストーカーのような印象を与えたかもしれないが、冗談である。鵜呑みにするでない。
疲れた体にアルコールを入れると、麻薬や鎮痛剤のような役割を果たすようだ。ほんの2、3杯でハイになり、気がつけば全身筋肉痛の痛みを感じなくなっていた。そんな状態になり、音楽がガンガンに流れるこの状況で、人間が取る行動はただひとつ。
踊るしかない!!!
自分がどれくらいのダンスのレベルかは、わきまえているつもりだ。レベルゼロである。しかし、自分の感情をダンスで表現することは、とても大切だと思う。他人からどう見られようと構わない。いま、この瞬間の自分の感情を大切にして、激しく踊るのだ。クレイジーに生きるんだ。
と心の中で思いながら、軽めにリズムを取りながら控えめに踊った。なにせ、全身筋肉痛で体が言うことを聞いてくれないのだ。自分の力ではどうにもならないことなんて、世の中にはたくさんあるではないか。それを受け入れることが肝心だと思う。ただし、オレのゆうやのモテ具合に対する嫉妬心については、カウントしないでいただきたい。
それでも、『いまを楽しみたい』という気持ちは伝染するもので、リッキーも痛風の人のような動きでカクカク踊りだし、それに次いで、リサとユナ、セキュリティのおっちゃんまで、踊りの輪の中に入り始めた。おい、おまえら、仕事はどうした。まあ、今日はクリスマスイブ、みんなで踊ろうじゃないか。
店員すら踊っている状況で、踊らないやつがひとりいた。イケメンゆうやは、席でクールにカクテルを飲んでいる。悔しいぞ。なんか様になっているではないか。オレにはその立ち振る舞いはできないから、その役は譲るとしよう。
店の奥にあるトイレに行こうと、DJブースの前を通ると、なんと、なんとあの女性がプレーしていた。昨日もこのバーにいて、オレのダンスを遠くの席からじっと見つめて笑っていた、あの女性ではないか。なんという偶然、サンタさんがオレの行いをしっかりと見ていたのかもしれない。アグン山のときは、仲間のことを気づかいながらよくがんばった、ご褒美に女の子をプレゼントしよう。そういうことだろう。サンタさんの老眼鏡で、オレに都合よく映ったのだろう。仲間を気づかう余裕など、全く無かったのは内緒にしておこう。
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