第４５話　DJガール

あのお姉さんをDJブースで発見してテンションの上がったオレは、彼女に声をかけようと思ったところを、彼女のプレイの邪魔をしてはいけないと、もう一歩のところで踏みとどまった。仕方なく、目から熱光線が出そうなほどの眼力を込めて見つめた。

オレの熱光線は彼女に届いて、彼女の心を焼き焦がしたのだろう。彼女はオレに気づいて、DJの機器から手を離して、こちらに身を乗り出してきた。

まあ、オレの眼力（めぢから）が証明されたわけだが……

え、手放し運転大丈夫なの？

あなたのプレイの邪魔をしないように、声をかけずに見つめる攻撃だけで我慢したオレの気づかいはいったい、何だったというのだ！！！

そんな心の乱れは隠して、彼女に軽く笑顔で会釈してトイレへ向かった。

トイレの方向には厨房があり、ちょうどそこから料理を運んでくるユナとばったり会ってしまった。

DJの彼女との再会で嬉しくて余韻に浸っていたオレは、ふと、自分の顔が完璧な『ニヤケモード』になっていることに気がついた。こんな感じだ。（二十歳前半の酔っぱらいのオレ氏。過去には幾度なくこの表情を周りに見せてしまった為、ニヤケ顔が平常時の顔だと思われていた）

これではただの変態である。ユナにだけは、男としてオレのかっこいい姿だけを見せたい。ユナと出会った当初からそう思っていたオレは、とっさの反応で瞬時に真顔に戻した。

その時間わずか０．１秒。さすがオレの判断の速さとしか言いようがない。

コンピューターのような反応の速さのオレだったが、先にユナに見られていたので、

ニヤケーーーーーー→真顔

という映画「ターミネーター２」でジョン・コナーがシュワちゃん演じるT-800（サイボーグ）に、周りからサイボーグだとばれないように人間らしさの基本「笑顔」を教えるシーンで、笑顔を教えられたT-800はぎこちなく笑顔を作ったあと、すぐに真顔に戻るというものがある。

彼女がターミネーターを知っているかは知らないが、完璧にそのシーンをオレの顔が再現してしまった。

結果オーライ。顔芸だと思ったのだろう、ツボに入ったらしく、彼女は大爆笑してしまった。

女性を笑顔にさせるのは男性として当然の役目。基本中の基本である。

この場合、笑わせたのではなく、笑われた可能性が高いが、そんなことは気にせず、クールに振る舞い、平常心を装ってトイレに行った。

ちなみに、「笑わせる男」は女性からの価値が上がり、「笑われる男」は女性からの価値が下がるということは周知の事実だが、今の無敵状態のオレに言わせてみれば、クソくらえだ。

今にも暴れだしそうな漏れそうな息子を落ち着かせてトイレへ駆け込んだ。

トイレから戻りながら、軽くDJネーちゃんに合図をしてから席へ向かった。

アグン山登頂の疲労が思った以上に蓄積されていたらしく、もうノリだけで踊れる体力なんて残っていなかった。

くたくたで座っているオレに、ゆうやのことを聞いてくるリサは、まるで、疲れて仕事から帰ってきた夫に対して小言を言う妻のようで、正直いうと、うっとうしい。

が、ジェントルマンゆうまはもちろん、やさしくリサの話を聞いてあげて、ゆうやを誘惑する策を伝授して、これから作戦開始というときだった。

オレ、もう疲れたから帰りますわ。とゆうやの一言。

なに、脈アリの女の子をスルーして帰るとは、こやつ、やはり只者ではないな。

この状況は、もしオレに惚れている脈アリの女がいたとしたら、ラブホにインしたも同然なのに、こやつは、ラブホにインしても、ち○こはインしないで焦らすという、そのあとにもつながる上級レベルの高等テクニックを駆使しやがった。

師匠、こっそりあなたから学ばせていただきます！！！

残念そうな眼差しでゆうやを送り出すリサを横目に、オレは尊敬の眼差しでゆうやを見送った。

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