クレイジーハロウィン第16話 最後のランチ
最終日、またしても清掃員のノックで目覚めた。
「チェックアウトの時間ですよ」
「はーい、すぐ出ます!」
時計はすでに11時を回っていた。支度をしているうちに、初日のこの宿で出会った日本人の女の子ふたり、アイリとアヤカのことを思い出して連絡してみると、すぐにアイリから返事がきた。
『私達、今からホンデでランチする予定だけど、一緒に行く?』
『うん、行くー!』
『じゃあ、シンチョン駅でしばらく待ってるから、来てね』
猛スピードでシャワーを浴びて、服を着て準備が整うとすぐにフロントの階に下りた。
フロントには今日もパクさんが座っていた。
「パクさんお世話になりました。ありがとうございました。沖縄で待ってますね」
「こちらこそ、ありがとう。沖縄行ったときはよろしくね。では、気をつけてね」
ルームキーを返して、オレはシンチョン駅へ走った。
すぐに駅の入口でふたりを見つけた。
「おはよう。待っててくれてありがとう」
「意外に早かったね。じゃ行こうか」
改札をくぐり抜けて、3人で電車に乗ってホンデへ向かった。
月曜日の真っ昼間のホンデは、週末の夜の賑やかさの面影はなく、人通りも少なく静寂に包まれている。
そんな静けさが、沖縄の真冬並みの気温のソウルの空気を、よりいっそう冷たく感じさせる。
彼女たちの案内で通りを歩いて、ふたりのお気に入りの店へ入った。
席につくと、典型的な韓国人男性の、パーマがかった髪の毛を刈り上げた短髪スタイルのスタッフがメニューを持ってきてくれた。それから、オレたちは3、4人前用の豚キムチチャーハンを頼むことにした。
何回も韓国に着ているアイリにとっては、韓国語での注文は造作もないことで、手際よくスタッフに注文した。
しばらくしてスタッフがカセットコンロと、大きな鉄板を運んできた。それから、ご飯やキムチ、豚肉などが次から次へとテーブに並べられた。
何も知らなかったオレは、自分たちで調理するのかと思っていたのだが、スタッフが慣れた手付きで調理し始めた。
まず初めに、豚肉を投入して火が通るまで焼くと、食欲をそそる肉の油の匂いが脳を刺激した。それからキムチやご飯など入れて勢いよくかき混ぜると、あっという間に豚キムチチャーハンが完成した。
あまりのスタッフの手際の良さに、オレたち3人は拍手した。
「おいしく召し上がれ。では、失礼します」韓国語はわからないが、彼がそう言ったように感じた。
彼は笑顔でお辞儀をして戻っていった。
結構な量のあるチャーハンを小皿に取って分け合った。「チャル モッケ スムニダ (いただきまーす)」3人で声を揃えた。
チャーハンをひと口食べると、すべての食材が絶妙に絡み合って奏でるハーモニーが、口の中いっぱいに広がった。
ウマい!! と思った矢先、燃えるような熱さをのどや胃に伝わった。それが何か確かめるまでもなく、大量の汗が額から流れ落ちてきた。
辛い!!!
実は、スタッフが調理するときに大量のコチュジャンを入れていたようだ。辛いものが苦手なわけではないが、食べると人一倍の尋常じゃない汗が出るので、普段あまりオレは辛いものを食べないのだ。
汗が止まらない。何枚ものテイッシュで汗をふくオレを見ていたふたりが、オレのあわてようを見て笑いだした。
「いや、マジでめっちゃ辛いから。ふたりは辛くないの?」
「辛いけど、そこがいいんだよね。何回も食べて病みつきになっちゃった」
確かにウマいけど、それには同意しかねる、と思いながら、チャーハンを食べては汗を拭くということを何度も繰り返した。
あまりたくさんは食べないふたりだったので、最後に鉄板に少し残っていた分をオレが食べることになった。この頃には発汗もどうにか落ち着いて、最後に残ったおこげがついた一番おいしいところをいただいて無事に完食した。
少し休んで会計をしたあと、オレたちは店を出た。
「ありがとうね。沖縄に遊びに来てね。遊びに来たときは案内するから連絡してね」
今回の韓国の旅で仲良くなった人たち全員に言ったように、沖縄に来るように誘ってふたりと別れた。
まだ少し時間はあったが、3日連続の朝帰りで体力を消耗しすぎたので空港でゆっくりしたいと思い、早めに電車で空港へと向かった。
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