第10話 危機一髪!? スーパー二輪ドリフト

第10話 危機一髪!? スーパー二輪ドリフト

 

 

「おし、みんなでツーリングに出かけるぞ!! そしてディナーを食べに行こう」

マルセロの一声で、みんなでバイクでツーリングしながらディナーを食べる場所を探すことに決まった。

 

 

 

今回は、スロベニア人のタマラも誘って一緒に行くことになった。

いつも通りの流れで、ビアンカはマルセロの後ろ、ゲストのタマラはリッキーの後ろでオレとゆうやは一人一台ずつでバイクに乗った。

 

 

 

突然スコールが降ったりと変わりやすいバリの天気らしく、今夜も今にも雨が降り出しそうな雰囲気の中でオレたちは出発した。

天気を気にしていたらバリでは何もできない。気にせずに突き進んでいこう。

 

 

 

出発して5分後、すぐに雨が降り出してしまった。しかも、けっこうな大雨。

バイクは滑りやすいから慎重に運転しなければならない。

慎重にブレーキやアクセルワークを行っていると、追い打ちをかけるように雨が目に入ってきて視界の確保が難しくなってしまった。

 

 

 

みんなのヘルメットにはバイザーがついていて、ゆうやはメガネをかけている。

オレのヘルメットにバイザーがなくて完璧な裸眼。

雨の中でもいつも通りに時速80キロで走っていて、雨がオレの顔に激しく打ち付けている。

 

 

 

雨が顔に当たるのはどうにか我慢できるが、ずっとは目を開けていられない。

できる限り細目にして、雨が直接目に当たらないようにするも、額に当たった雨が目に入ってくる。

 

やばい、これじゃ前が見えない!!!

 

 

 

今雨が止んでくれるかどこかで休憩したいと思っていると、マルセロが途中で見えたマクドナルドに入った。

それに続いてみんなも入っていく。

助かった。この大雨では運転を続けたくない。

 

 

 

「この雨じゃ運転が大変だから、今日はここでハンバーガーを食べよう」

とマルセロが提案した。

「マルセロ!! マックなんていつでもどこでも食べれるじゃん。せっかくバリに来てるのに、他のものが食べたい。マックは絶対にいや!!!」

と急にビアンカが怒りながら訴え始めた。

 

 

 

そのとたんに雨は弱くなり、少し視界が開けてきた。

天気をも動かすビアンカのわがままさは凄まじかった。

「しょうがないな。ビーチにあるレストランへ魚料理を食べに行こう」

呆れた表情でマルセロは提案した。

「早く行きましょう!」

調子のいいビアンカは、少し機嫌が戻ったのであった。

 

 

 

雨が止んで運転が楽になると、意外と早くビーチについた。

たくさんのバイクが止められている駐輪場で、隙間を見つけてうまくバイクを間に突っ込んで停める。

それからビーチにあるレストランに入っていった。

 

 

 

レストランではビーチに席がセッティングされているが、満潮の時刻が近づいてきたらしく、席のところまで潮が満ちてきていた。

スタッフが席を安全な位置まで移動したあとに、オレたちは席についた。

 

 

 

このレストランでは一人分の量の料理がなくて、すべて4人分以上の大きい料理を頼んでみんなでシェアしなくてはならない。なかなか注文が決まらないでいると、マルセロが話し始めた。

「みんな、これだけは言わせてくれ。オレは普段はひとり旅をするから何をするかとか何を食べるとか悩まなくて良いんだ。だけど、今回のグループでの旅は、みんなの意見が食い違ってなかなか決まらない。それがオレにとってストレスなんだ。

だから話をまとめやすいように、もっとオレに協力してくれ。

全部オレの決定に従うんなら、そのほうが話が早いけどな」

 

 

 

ここ数日で不満が溜まっていたマルセロは、話したあとはスッキリしたらしく、気持ちを切り替えてまた仕切り始めた。切り替えが早くて引きづらないところがオレがマルセロの好きなところのひとつでもある。

「焼き魚を頼んでみんなでシェアしよう」

そう言って、大きな焼き魚2つとサイドメニューをいくつか頼んだ。

 

 

 

しばらくすると、焼き魚のいい匂いが漂ってきた。

ウェイトレスが次々と料理を運んでくると、待ってましたとばかりに腹を空かせたオレたちは、ハイエナのようにどんどん食べまくった。

 

 

 

あっという間にテーブルの上にあった料理が消えてしまった。

残されたのは、魚の骨と食欲が満たされたみんなの満足げな顔だけ。

またいつ雨が降り出すのかわからないので、すぐに帰ることにした。

 

 

 

帰る途中、バイクの燃料が減っていたので、ガソリンスタンドに寄った。

その時に事件は起きてしまったのである。

リッキーがバイクでガソリンスタンドの場内の段差を越えるとボコンと

大きい音がした。

「マジかよ!!!」

リッキーが後輪のタイヤがパンクしてしまったのを確認した。

 

 

 

すぐにタイヤに空気を入れるが、後ろにタマラを載せていてはタイヤが潰れてしまう。

この時間はバイク屋さんは閉まっていて、タイヤ交換できそうにない。

リッキーひとりだとどうにか走れそうだ。そこでリッキーは決断した。

「ユウマ、おまえの後ろにタマラを載せてやれ」

 

 

 

えー!!! オレ? まだ初めてバイクを運転して三日目だよ?

ゆうやの後ろに載せるという選択肢もあったが、その場合ゆうやでは、グーグルマップで指示をするタマラと英語でコミュニケーション取るのが難しいため、結局オレの後ろにタマラを載せた。

タマラが後ろに載った瞬間にバイクの重心が変わって、バランスが取りづらくなったがやるしかないと思った。

 

 

「できるだけ安全運転で死なないようにがんばるから、しっかりつかまっててね」

ちょっとしたヒーローになったつもりでタマラに言うと、タマラはオレの腰をがっちりと掴んできた。タマラにオレのiPhoneを渡して、グーグルマップを

見てもらいながらバイクを走らせた。

 

 

 

バイクを走らせるとだんだんと二人乗りも慣れてきて、このままのスピードで帰れると油断しているときだった。

道路の雰囲気が何やら変わって、いつの間にか目の前には料金所がある。

そう、高速道路に来てしまった。もうあとには引き返せない。

 

 

 

マジかよ。バイク初心者なのにもう高速道路まで走ってしまうのか。

いろいろ経験するペースが早すぎる。少し緊張してきたが、先に料金の支払いが終わってみんなが支払いをしているうちに、タマラと記念写真を取っておいた。

『バイクで初めての高速道路記念日』

 

 

 

みんなの料金の支払いも終わってバイクを走らせた。

バイクを走らせてすぐに、遠くに見える街の夜景が飛び込んできた。

都会の夜景と比べたら物足りないけど、このシチュエーションで見る夜景は

十分すぎるほど美しかった。オレの後ろには女の子。最高じゃん!

 

 

 

このシチュエーション見る夜景にオレの気分は高揚して気がつけば、

抑え気味に走っていたはずが時速100キロで走行していた。

だんだんと分岐点が近づいてきて、右と左のどちらに行くのかタマラの指示を待っていた。

 

 

 

さらに分岐点に近づく・・・

「タマラ、どっちに行けばいい?」

「右よ、右」

マップの表示が見えづらかったらしく、タマラは手間取ってしまった。

 

 

 

さあ、これから右折するぞという時に気がついてしまった。

分岐点の左側は緩やかなカーブで右側は急カーブ。

右の急カーブを曲がるには、時速100キロから減速するには遅すぎる

タイミングだった。やばい。死ぬかもしれない。

 

 

 

ブレーキレバーをブレーキをロックさせないように、注意しながら目一杯握った。

やばい!!! 止まってくれ!!!

スピードは落ちたが曲がるにはまだまだ早すぎるスピードだ。

さらにブレーキをかけて曲がる体勢に入った。

 

 

 

さっきの雨の影響で濡れている路面で、後輪が少し滑り始めた。

とっさに何年も前に、ときどき車でドリフトして遊んでいた記憶が蘇った。

体が自然と反応して、車体のバランスを取るために滑る方向とは逆にハンドルを切ってカウンターステアを当てた。

 

 

 

すると、バイクは安定し始めて少しずつカーブを曲がり始めた。徐々に後輪の滑りもおさまってカーブから立ち上がると再びバイクは安定し始めて、どうにか無事にカーブをクリアした。

この間3秒ほど。時が止まったかのように全てがスローモーションのように見えた。

一瞬にして、ものすごい集中力が発揮できたんだと悟った。

 

 

 

他のみんなはだいぶ車間距離を取っていたので、このスーパー二輪ドリフト伝説を知る由もなかった。何はともあれ、死ななくてよかった!!!

タマラと顔を見合わせると、ふたりとも安堵の表情を浮かべたのだった。

 

 

 

無事にホステルについて、タマラにガイドしてくれたことにお礼を言って、それから危険運転を誤っておいた。するとタマラは笑顔で応えた。

「とっても楽しかったよ。ありがとう。また後ろに乗せてね」

あかん。ほれてまうやろー!!!

 

 

 

そこからはタマラと何もなかったんですけどね。ちーん。

いつも以上に集中力を消費したので、ホステルにつくと安心してどっと疲れが出た。すぐにシャワーを浴びてベッドに入った。

 

 

 

ベッドに入ると、しばらく今夜のできごとが頭の中で繰り返し思い返されていた。

人間は危機に直面すると、脳が自然と知識や経験からベストな選択をして反応してくれるんだと実感した日だった。危険ではあったけど、とてもエキサイティングな日でもあった。自分の体に感謝して眠りについた。

 

 

 

他のみんなもさっさと寝たらしく、今夜も誰かさんのクマのようなバカでかいいびきがドミトリーに響きわたっていた。

オレはそんなの関係なくすぐに寝れたけど、ゆうやはしばらく寝付けないだろうな。笑