第5話 オレ流シンガポール観光
前回、神秘的な夜について語ったが、神秘的な夜にふさわしい締めくくりを語ることを忘れていた。
日本語を話す彼が僕を送ってくれたあと、僕は近くの24時間営業のコンビニで買い物してからアパートに帰ることにした。
深夜2時過ぎということもあって、僕以外に客はいなくてシーンとしているかに思われた。
そこで聞こえてきたのが、グガァー、という少し遠慮気味ないびきだ。
店員のおばちゃんがレジで頬杖ついて気持ちようさそうに寝ている。どうりで入り口からはレジに誰もいないように見えるわけだ。
深夜2時、確かに普通なら寝ている時間だ。勤務中ではあるが、気持ちよさそうに寝ているおばちゃんを見ると、僕は起こすのがなんだか申し訳ない気持ちになった。
会計までの間、もう少し寝かせておいてあげよう、という気持ちでミルクティーを取りレジに置いた。
「おはよう、ごめんなさい。会計お願いします」
言った後から、なんで自分が謝る必要があるのか疑問に思ったが、ここはシンガポールで僕は外国人。その土地の習わしに従うしかない。
おばちゃんは目を覚ますと、いったい何が起こったの、という表情を見せたがすぐに状況を把握したらしく、ちゃんと会計をしてくれた。
「Have a sweet dream! (いい夢を!)」
そう言って僕は店を出た。
部屋に戻ると、もちろんみんな寝ていたので、僕もすぐにベッドに横になった。
翌朝、僕は少し遅めの朝を迎えた。
リビングではサトシとルームメイトが話していた。彼らは僕に気がつくと、待ってましたとばかりに、朝ごはんを食べに行こうと誘ってきた。
僕は冷たい水で顔を洗って目を覚ますと、すぐに着替えて彼らと一緒に出かけた。
歩いて10分ほどで、僕たちは近くの市場のようなフードコートのような場所にやってきた。
土曜日の朝だからなのか、たくさんの人で賑わっている。すべての店には漢字で表記されている。人も店も中国系の人が多いように思う。
僕がカナダに住んでいるときにもチャイナタウンでよくご飯を食べたが、中国系の店は安いしおいしいし僕は結構好きだ。
サトシたちがメニューを選んでくれるということで、僕はちょっと期待した。
白いものは大根のようにみずみずしくて、にんにくが含まれる何かの薬味がかかっていた。可もなく不可もなくといったところ。
僕は麺は基本的に辛くなければ食べられるので、それなりにおいしかった。
おいしい、とサトシたちが興味津々にきいてくるので、もちろん僕は、めっちゃ旨い、と答えておいた。
正直に言うと、一番おいしかったのは間違いなくミルクティーである。
食事のあと、僕たちは近辺を散歩して、人気のコーヒーショップで食後のコーヒーを飲みアパートへ戻った。
敷地内の公園に鉄棒があるのを見つけたので、僕は習慣である筋トレがこの旅行で途絶えてしまわないように懸垂をすることにした。
僕の両手が塞がって無防備なことをいいことに、サトシは容赦なく僕の写真を撮った。
こうして改めて見ると、首を吊るされて死にそうになり、かろうじて手すりに捕まっているように見える。僕は死にましぇーーん。
高温多湿のシンガポールなので、懸垂10回×3セットやっただけですぐに汗だくになってしまった。
部屋に戻って、僕は真っ先にシャワーを浴びた。
午後はサトシもルームメイト君も予定があるみたいなので、僕はひとりで街に繰り出すことにした。
街と言っても今度はチャイナタウンでなく、シンガポールらしいところをチョイスした。
それは、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイと呼ばれる植物園。
とはいえ、僕は植物にまったく興味がないので、散歩コースとして歩きながら景色を楽しむことにした。
例えばこういった景色。
東京で外国人が、酔っ払って路上で寝ている日本人を写真に収める気持ちがわかったような気がする。
おそらく夫婦だと思うが、二人でこうして寝ているのはものすごくレアだと思う。
そして、シンガポールといえばマーライオンだと思う。マーライオンの吐き出す水を飲むふりして写真を撮るのが定番だろうが、あまりにベタすぎる。
代わりに僕が撮ったのはこれだ。
近くを通りかかった日本人の女の子グループにお願いして撮ってもらった。
かの有名なナポレオンが馬に乗ってかっこよくキメている絵を意識したが、彼女たちにはまったく伝わっていないらしく、若干引き気味な雰囲気が漂った。無能どもめ。
とまあ、植物園を歩き回ったわけだが、シンガポールの気候は長時間屋外を歩くには暑すぎる。
そこで僕は、近辺で一際目立っているショッピングモールに逃げ込んだ。
少し日が落ちて日光が弱くなるまで、僕はショッピングモールで暇をつぶした。
人間観察をしたり、竹馬に乗った着飾ったお姉さんたちと写真を撮ったり。
そんなことをしているうちに日は落ちていき、外の暑さも少しやわらいだ。
ショッピングモールのすぐ外は港になっていて、散歩するのにちょうどいい感じだ。
カップルがベンチで愛を確かめ合っているのを横目に僕は歩いた。
空は徐々に赤みを帯びてきた。
特に珍しい景色ではないが、ハーバービューを見ているとなんだかバンクーバーに住んでいたときのことを思い出す。
僕はひとりベンチに座りながら、カナダではあんなことやこんなことがあったなあ、などと思い返した。
しばらく思い出に浸っていると、だんだんと街には明かりが灯り、空は暗闇に包まれていった。
ゆったりした心が落ち着く時間であった。
このあと、心が浄化された僕が行き着く先といえば、やっぱりここだった。
チャイナタウン。
僕の顔より大きい(小顔をアピールしているわけではない)特大肉まんとタイガービールのコンボ。
誰にも邪魔されずにゆっくりと味わう。これ、マジ最高。
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