第40話 DEATH SLIDING デス・スライディング〜死への滑走〜

第40話 DEATH SLIDING デス・スライディング〜死への滑走〜

 

 

下山は登り以上に過酷だった。登りで体力を使い切った上に、一歩一歩踏み出すたびに、登り以上の負荷が足にかかる。そんな体に、まず最初に岩場エリアの試練が襲いかかってきた。

ガイドのおっちゃんのあとに続いて、一歩一歩慎重に踏み出していく。

 

 

 

まずは安定するポイントを、何も目印のない大きな岩の中に探して、そっと足を置く。岩は露で湿っているので、滑らないように細心の注意を払う。もし足が滑っても体が落下しないように、手でがっちりと岩を掴んで体を支える。

それから少しずつ体重を足に移して下りていく。岩場エリアでは、集中力を保ちながら、この方法でゆっくりと下りていった。

間違いなく登りよりも難易度が高い。

 

 

 

傾斜が緩やかな岩場エリアに入っても、まだまだ気は抜けない。露で湿っている岩はとても滑りやすく、まるで氷の上を歩いているようだ。日頃のサッカーで鍛えたボディバランスが、ここで大いに役立った。明るくなって、足を滑らせた人が行くコース、そう、『底が深い崖』があらわになり、死への恐怖をいっそう煽る。

死と隣り合わせの状況の中、他のメンバーのことを気にかける余裕など全く無かった。

 

 

 

どうにか一度も滑ることなく(もし滑ったら死んでいるのだが)岩場エリアをクリアしてから、森林エリアに入った。この頃になると、すでに集中力を使い果たし、強烈な睡魔が襲ってきた。ガイドのおっちゃんが先導して、そのあとに続くゆうやのあとを着いていくオレ、そのあとに、頂上に着いて人が変わったようにエネルギッシュになったリッキーが、膝をかばいながらかろうじてついてきていた。マルセロとタイサはもうひとりのガイドに付き添われて、少し遅れながらもついてきていた。

 

 

 

一瞬ホッとして、気を抜いた瞬間だった。森林エリアの滑りやすい土に足を踏み出すと、足は安定することなく、ズルッと滑り出した。この瞬間に、ヤバイ、死ぬ!!と真剣に思って、ぎゃーーーーーーーー!!!という悲鳴(奇声?)を上げた。そのとき、オレの生存本能が瞬時に働いて、体のバランスを立て直そうと、スノボーに乗るようなおかしな体勢になった。幸運にも、その体勢のまま、5m先にあった小さい岩がストッパーとなり、体が止まった。

 

 

 

悲鳴に気づいて振り返り、オレのへんてこなスノボー体勢を見ていたゆうやと、後ろから一部始終を見ていたリッキーが、どっと笑いだした。やっと、『DEATH SLIDING デス・スライディング〜死への滑走〜』 が止まって心臓がバクバクしているオレをよそ目に、ふたりは腹を抱えて笑っていた。こいつら、性格悪すぎる。オレが死んでも笑っているだろうし、笑いながら人を殺すタイプだな。サイコパスめ、と思いながら、深呼吸をして自分を落ち着かせていた。

 

 

 

まあ、よくよく考えると、客観的に見ても、オレのスライディングは間違いなくへんてこな滑りだった。オレの顔も必死の形相だったに違いない。オレのスライディングによって、極度の疲労と睡魔でしゃべる元気もなく、ただ黙々と下山していた暗いムードが少し明るくなった。地上までもう少し、気を引き締めてがんばろうというムードになったのだった。

 

 

 

そうこうして、傾斜のきつい森林エリアから抜けるまでに、オレはデス・スライディングをあと3回は繰り返した。もちろん、わざとじゃないです。そのたびに、笑いが生まれて楽しいムードになるかと思いきや、3回目からは、またかという空気が流れて、ゆうやとリッキーは大丈夫かと軽く眺めるだけで、オレがスベったような雰囲気になった。いや、本当に滑ったのだが。こちとら命がけなんです。

 

 

 

だんだんと傾斜が緩やかな道になったころ、森の隙間から遥か彼方にスタート地点の寺院がぽつんと見えた。今にもバタッと倒れそうなオレには寺院が天国に見えて、再び活力が戻ってきた。

それからラストスパートが始まった。